経営者の人間ドック費用を100%経費化する節税対策

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
中小企業の経営者である皆さんは、日々の業務に追われながらも「健康管理の大切さ」を感じているのではないでしょうか。
特に30代から50代に差しかかると、仕事量の増加や生活習慣の乱れもあり、体調の変化に敏感になる時期です。
こうした中で、健康リスクを早期発見・予防することは、ビジネスを長期的に成長させるうえで大切な自己投資となります。
しかし、MRI・CTスキャン、胃カメラ、大腸カメラといった総合的な検査を受けようとすると、個人負担としては決して安いものではありません。
ところが、多くの経営者が見落としているポイントとして、「人間ドック費用を会社の経費として計上する」方法があります。
正しい制度設計を行えば、経営者自身の健康管理費用を合法的に会社経費へ組み込み、税負担を軽減することが可能です。
本記事では、税務調査の際にも否認されにくい、正しい計上方法とポイントについて解説していきます。
人間ドック費用の経費化:多くの経営者が陥る誤解
人間ドック費用を会社の経費として計上するには、いくつか押さえておくべき条件があります。
これらを誤解していると、税務調査の際に否認され、追徴課税のリスクを負うことになりかねません。
最も重要なのは、「制度が公平に運用されているかどうか」という点です。
国税庁の質疑応答事例(「人間ドックの費用負担」)でも示されているように、役員や経営者だけを対象とした人間ドック受診制度では、福利厚生費としての経費計上が認められません。
この場合、税務当局は「役員への給与の上乗せ(経済的利益の提供)」とみなし、所得税の課税対象として扱います。
「社内規程に『取締役は定期的に人間ドックを受診し、その費用は会社が負担する』と明記しているものの、一般社員には受診の機会を与えていない」 といったケースは危険です。たとえ社内規程でルール化していても、「経営者だけが特別待遇を受けている」と判断されれば、税務調査での否認リスクが高まります。単に文面上で規程を整備するだけでは不十分で、「実質的な公平性」を満たすことが重要なのです。
しかし、全従業員を対象とした制度を作るとなると、費用が大幅に増えるのではないかと懸念される方も多いでしょう。
次の章では、「会社全体での受診制度」をいかに効率よく設計し、コスト増を防ぐかというポイントについて詳しく解説していきます。
コストを抑えつつ節税するための制度設計
人間ドックを受ける対象者を一定の条件で限定することで、税法上認められる福利厚生制度を整備しながら、大きなコスト増を回避することが可能です。
ここでは、その具体的な方法を見ていきましょう。
対象者の条件設定による最適化
制度を設計するうえでまず大切なのは、「全従業員対象」の建前を保ちながら、現実的に受診者をある程度絞り込むことです。
以下では、その際に有効な条件設定の例をご紹介します。
- 雇用形態による制限
正社員のみを対象とし、パート・アルバイトは除外する方法です。
人員の流動性が高いパートやアルバイトを制度対象から外すことで、一時的なコスト増を抑えられます。 - 年齢による制限
事業年度開始日において40歳以上の従業員のみを対象とするといった方法です。
厚生労働省の定める特定健診や各種検査の推奨年齢に合わせれば、健康管理の必要性とも整合性が取りやすくなります。 - 勤続年数による制限
入社から3年以上経過した従業員のみを対象とするなど、一定期間勤務した社員に限定するやり方です。
勤続年数の短い従業員は対象外となるため、制度導入の初期コストを低減できます。
これらの制限を組み合わせることで、「形式上は全従業員対象だが、実際には主要な人材が中心となる制度」にすることが可能です。
ポイントは「結局は役員しか使えない」状態にしてしまうと、本来の公平性が損なわれてしまい、税務上の否認リスクが高まる点です。
あくまで“合理的な範囲”で条件を設定することを意識してください。
費用負担の金額設定による最適化
もう一つ重要になるのが、「会社がどの程度の金額を負担するか」という設計です。
費用負担を定める際に、役職ごとの金額差が大きすぎると否認のリスクが高まります。
実際の設定例を挙げながら解説します。
- 社長:20万円以内
経営トップとして会社運営に対する責任が大きいため、より充実した人間ドックを受けられる範囲を想定します。 - 取締役:10万円以内
一般従業員よりも高額な人間ドックを受けることは妥当とされますが、社長ほどには設定しないケースが多いです。 - 一般社員:5万円以内
高額な検査まで含めるとコストが膨張します。標準的な人間ドックや健康診断の範囲を想定し、費用負担上限を設定することで公平性を保ちます。
役職間での給与水準や業務内容を踏まえたうえで、社会通念上「これくらいなら妥当」と納得できる範囲を見極めることが肝心です。
会社の実態に合わせて費用負担を設定することで、福利厚生費としての認定を受けやすくなり、結果的に経営者の人間ドック費用をスムーズに経費化できるでしょう。
人間ドック費用の上限額:経費として認められる金額の目安
それでは、経営者自身が受診する人間ドック費用はいくらくらいまでなら税務上問題ないのでしょうか。
法律上、明確な上限額は定められていませんが、実務的な目安としては「年20〜30万円程度」が安全圏と考えられています。
実際の税務調査事例では、社長の人間ドック費用が40万円を超えるケースで否認されたという話があります。
専門書の多くも、具体的に「いくらまでなら絶対にセーフ」とは断言しておらず、ポイントは「社会通念上、妥当な範囲かどうか」です。
年収が非常に高い経営者でも、50万〜100万円の人間ドック費用を福利厚生費扱いにするのはリスクがあるといえます。
また、医療機関が提供している標準的な人間ドックパッケージの価格帯も参考になります。
一般的に、20〜30万円前後のプランであれば、MRIやCT、内視鏡検査などの主要な検査項目を網羅できるため、節税効果と実益を両立しやすいでしょう。
人間ドック費用を経費化するための実践的ステップ
ここまでのポイントを整理しながら、実際に人間ドック費用を経費として計上するために必要なステップを見ていきましょう。
制度を導入する過程で「何を準備し、どのように運用するか」を明確にしておくと、税務調査の際にもスムーズに対応できます。
現状の確認と方針決定
まずは、自社での現状を確認し、具体的な導入方針を決めます。
すでに人間ドック費用を経費で落としている場合は、「規程が役員のみを対象としていないか」「実際に全従業員へ周知しているか」を再チェックしてください。
もし役員のみが受診している現状であれば、早急に見直しが必要です。
逆に、まだ制度がない企業は、「自社の規模や従業員構成」「健康経営のビジョン」「年間予算」などを考慮して、対象となる従業員や費用負担額の上限を検討しましょう。
経営者や従業員が安心して働ける環境を整えることで、企業イメージの向上にもつながります。
社内規程の整備
次に、社内規程(福利厚生規程など)を整備します。
規程の内容が不備だと、税務当局から「実質的に役員だけが恩恵を受けている」と見なされるリスクがあります。
以下のようなポイントを明確にしておきましょう。
- 制度の目的
従業員の健康管理支援や健康経営の推進など、会社としての意図を示すことで、制度の必要性を客観的に説明できます。 - 対象者の範囲と条件
雇用形態、年齢、勤続年数などをどう設定するかを具体的に明記します。 - 会社負担の上限額
役職ごとや雇用区分ごとに、どこまで会社が負担するのかを明文化します。 - 受診頻度
年1回などの頻度を決め、それ以上の受診については自己負担にするなどのルールを設けると管理がしやすくなります。 - 手続き方法
受診申請や精算のフローを整備し、従業員がスムーズに制度を利用できるよう配慮しましょう。
税務的な観点と労務管理の両面から整合性を取りたい場合は、税理士や社労士などの専門家に相談することをおすすめします。
制度の運用と記録管理
制度を導入した後は、しっかり運用し、適切な記録を管理しなければなりません。
運用が形骸化してしまうと、税務調査の際に否認リスクが高まります。
以下の点に留意してください。
- 対象者への制度周知
従業員全員が制度の存在を知り、必要に応じて利用できる環境をつくります。 - 受診申請・承認のプロセス
事前申請や費用精算の方法を決め、誰が承認を出すのかを明確にしましょう。 - 費用の支払い・精算方法の明確化
会社が直接医療機関に支払うのか、従業員が立て替え払いをした後に精算するのかを決めておきます。 - 受診記録の管理
プライバシーを保護するために、個人の検査結果は扱いに注意が必要です。
受診実績だけを管理するなど、税務調査で「全従業員が制度を利用できる」ことを証明できるようにしておきます。
特に気をつけるべきは、経営者や役員以外の従業員の受診実績が「全くない」状態が長く続いてしまうケースです。
制度は存在するのに、実質的には経営者しか使っていないと判断されると、否認される可能性が高まります。
制度導入後は、広報や周知を徹底して「誰でも利用できる仕組み」であることを示しましょう。
まとめ:健康投資と節税を両立させる経営戦略
人間ドック費用の経費化は、経営者自身の健康維持と節税を同時に実現できる魅力的な方法です。
ただし大前提として、「役員だけが恩恵を受ける制度」では税務当局に認められません。
そのため、全従業員を対象とした制度設計と、税務調査で否認されない程度の金額設定が求められます。
具体的には、年齢や勤続年数で対象者を限定しつつ、役職ごとの費用負担上限額を適正に定めることで、コストを大きく上げることなく公平性を保てるでしょう。
また、経営者の人間ドック費用に関しては20〜30万円程度の範囲に収めるのが実務上の無難なラインと考えられます。
こうした節税手法は、税引後の手取り給与から支払うはずの支出を、合法的に「会社経費」に振り替える点に意義があります。
しかし、専門家でさえ誤解している場合も多い領域であるため、最終的には税理士や社労士などへ相談し、自社の実情に即した制度を作り上げると安心です。
健康という“無形の資産”と、節税による“財務的メリット”を同時に確保できるのが、人間ドック費用の経費化の大きな魅力です。
ぜひ今回ご紹介したポイントを参考に、自社の状況に合わせた最適な福利厚生制度を整備し、経営者としての健康管理と企業の発展を両立させてください。