売上アップの方程式:集客商品と収益商品の使い分けで利益を最大化
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週火曜日に、経営者なら知っておきたい「売上増加」についての知識を解説しています。
経営者の方から「人気商品は分かるんですが、実際どの商品に力を入れればいいの?」というお悩みをよく耳にします。
確かに、日々の販売データを見ていれば、どの商品がよく売れているかは把握できます。
しかし、その商品が本当に利益に貢献しているのか、あるいは別の役割を果たしているのか、という視点で分析できているケースはあまり多くありません。
そこで今回は、私がこれまでの支援実績の中で培ってきた実践的な商品分析の手法について、段階を踏んでお伝えしていきます。
商品を「集客商品」と「収益商品」に分けることで、売上拡大のみならず利益を最大化する戦略を構築しやすくなるはずです。
商品の「役割」を理解する
商品分析の第一歩は、「集客商品」と「収益商品」という2種類の役割をしっかりと区別することです。
多くの経営者の方は、商品を「売れるか・売れないか」だけで分類しがちですが、それだけでは十分な分析ができません。
役割を分けることで、どの商品にどのような期待を持たせるかが明確になります。
集客商品とは
まずは「集客商品」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
集客商品とは、お店に人を呼び込むための商品であり、新規顧客の獲得が主目的です。
具体的には、次のような特徴があります。
- お店に人を呼び込むための商品
価格帯や知名度、話題性などで「とりあえず買ってみよう」「とりあえず行ってみよう」と思わせる力が強い商品です。 - 新規顧客の獲得が主目的
たとえ利益率が低くても、まずは来店数や購買数を増やして、店を知ってもらうことが最優先になります。 - 利益率は低めでもOK
集客商品は「入口」になってもらう役割なので、粗利が高くなくても、他の商品を購入してもらう導線を作れれば十分に役立ちます。
収益商品とは
次に、ビジネス全体の利益をしっかりと支える「収益商品」について解説します。
収益商品には大きく分けて2つのタイプがあります。
- 継続型
リピート購入を促す商品です。例えば、定期的に買い足す消耗品などが該当しやすいです。リピート率が高い商品は安定的な売上を生み出し、長期的に利益を支えてくれます。 - 高額型
1回の購入で高い利益を確保できる商品です。単価が高いぶん、購入頻度は低くなるかもしれませんが、一度の取引でまとまった利益が得られるため、売上アップに大きく貢献します。
商品マトリクスで見える化する
商品を分析するとき、闇雲にデータを眺めているだけでは「何が問題で、何が機会なのか」が見えにくいものです。
そんなときにおすすめしたいのが、以下2つのマトリクスを活用する方法です。
ここでは、マトリクスの役割や見方、実際にどのように配置すればいいかを解説します。
1. 基本の商品マトリクス
まずご紹介するのが、「単価」と「販売数(販売数量)」という2軸で商品を分類する基本的なマトリクスです。
このマトリクスを活用することで、「単価が高いのにあまり売れていない商品」や「単価は安いけれど売れ行きが非常に好調な商品」といった特徴が一目で把握できます。
単価
高 │ 高単価・低回転 │ 高単価・高回転
│ (要注意) │ (収益商品候補)
│ │
───────┼────────────────┼───────────
│ 低単価・低回転 │ 低単価・高回転
低 │ (カット候補) │ (集客商品候補)
└────────────────┴───────────→
低 販売数 高
- 高単価・高回転:すでに利益貢献している優良商品が多いため、ここに入る商品は「収益商品」にふさわしい。
- 低単価・高回転:利益率は低いかもしれませんが、販売量が多いので「集客商品」として有効な場合が多い。
- 高単価・低回転:売れていない高単価商品は要注意。改善策や値下げ検討も必要かもしれません。
- 低単価・低回転:売れていない上に単価も低い商品は、在庫リスクが高いためカット候補になります。
2. トレンドマトリクス
次に、「前年比成長率(成長率)」と「売上シェア」を掛け合わせたマトリクスです。
これは、商品がどの程度成長しているか、そして全体の中でどれだけの売上割合を占めているかを把握するためのフレームワークとなります。
成長率
高 │ 成長期・低シェア │ 成長期・高シェア
│ (要観察) │ (注力)
│ │
───────┼────────────────┼───────────────
│ 衰退期・低シェア │ 衰退期・高シェア
低 │ (カット) │ (維持・改善)
└────────────────┴───────────────→
低 売上シェア 高
- 成長期・高シェア:これからも積極的に伸ばしていきたい「注力商品」の候補。
- 成長期・低シェア:まだシェアは小さいが、成長の可能性が大きいので引き続き観察が必要。
- 衰退期・高シェア:現在は売上を支えているものの、伸びしろが薄い商品。維持・改善策で寿命を延ばすかどうかを検討。
- 衰退期・低シェア:全体の売上に対する貢献度も小さく、今後も伸びないため、カットや入れ替えを視野に入れる。
実践的な商品分析の手順
それでは、具体的にどのような手順で商品分析を進めればいいのでしょうか。ここでは、ステップごとに必要な作業と意識すべきポイントを解説します。
Step 1:データの整理
まずは、分析に必要なデータを揃える段階です。以下の項目をリストアップして、商品別に数値を出してみましょう。
これらの数値をきちんと把握することで、後述のマトリクスを有効活用できます。
- 売上金額
- 販売数量
- 粗利率
- 前年比成長率
Step 2:マトリクスへの配置
先ほどご紹介した2種類のマトリクス(基本商品マトリクスとトレンドマトリクス)を作成します。
- 基本マトリクス: 縦軸を単価、横軸を販売数量にして商品を配置
- トレンドマトリクス: 縦軸を成長率、横軸を売上シェアにして商品を配置
この段階で、商品ごとの特徴が視覚的に把握できるようになります。
Step 3:役割の明確化
最後に、マトリクスで見えた傾向を踏まえながら、商品を「集客商品」「収益商品」「改善・廃止候補」といった形で整理します。
- 集客商品としての可能性
低単価・高回転、あるいは成長率は高いもののまだ売上シェアは低い商品などは「集客商品」候補として検討します。 - 収益商品としての可能性
粗利率が高く、高単価・高回転の商品や、成長率が大きい商品は収益の柱として重点的に強化します。 - 改善または廃止の検討
カット候補の商品も、単純に廃止するのではなく、値上げ・リニューアルなどで改良の余地があるかどうかをチェックしましょう。
よくある課題と解決策
商品分析を進める過程で、多くの経営者の方がつまずきやすいポイントがあります。ここでは、代表的な3つの課題とその解決策を挙げておきます。
- 「データ収集が大変」
商品別の売上金額・数量・粗利など、集計すべきデータが多く、手間がかかるという声をよく耳にします。- 解決策:
- 売上上位20商品だけをピックアップして分析を始める
- POSデータの活用や会計ソフト連携で効率化を図る
- すべてを完璧にやろうとせず、まずは週次・月次で「ざっくり」チェックからスタートする
- 解決策:
- 「役割分担が難しい」
商品を「集客」と「収益」に分ける基準が分からない、あるいは従業員同士で判断が異なるなどの混乱が生じるケースです。- 解決策:
- 現場スタッフの意見を積極的に収集する(実際に接客するスタッフが最も顧客の声を知っている)
- 顧客の購買パターンを観察し、セット購入の多い商品を探る
- 試験的に役割を変更してみて、売上や顧客の反応を確認し、PDCAサイクルを回す
- 解決策:
- 「価格設定に悩む」
集客商品の価格を下げすぎると利益が出ない、収益商品の価格を高くしすぎると売れない、といったバランスは難しいものです。- 解決策:
- 競合店の価格帯をリサーチし、自社の強みをふまえた価格に設定する
- 顧客アンケートやSNSでの反応を活用し、価格への抵抗感をリサーチする
- 期間限定の価格テストやキャンペーンを行い、どの価格帯が最も収益・満足度を高めるかを検証する
- 解決策:
実践のためのチェックリスト
最後に、実際に動き始める際のチェックリストをまとめます。
以下の項目を順番に見直しながら、分析と施策を繰り返していくことで、商品ごとの役割がより明確になり、売上アップの可能性が高まります。
- 基本分析
- 商品別売上ランキング作成
- 粗利率の算出
- 販売数量の把握
- 役割の明確化
- 集客商品の特定
- 収益商品の特定
- 改善必要商品のリストアップ
- アクションプラン
- 集客商品の販促計画
- 収益商品の提案方法
- 商品構成の見直し時期
このように、チェックリストを使って定期的に分析・施策を進めることで、ビジネスの成長サイクルを回すことができます。
おわりに
商品分析は、一見すると複雑に思えるかもしれません。しかし、「集客商品」と「収益商品」という
2つの役割を意識するだけで、売上アップのための戦略が驚くほどシンプルに見えてきます。
まずは、売上上位の商品を対象に、今回ご紹介したマトリクスや役割分担を試してみてください。
そこから得られる「気づき」が、必ず新たな売上アップのヒントとなるはずです。
短期的な効果だけでなく、長期的な成長の土台を作ることが、本当の意味での利益最大化につながります。
皆様のビジネスにおいても、「集客」と「収益」のバランスをぜひ意識してみてください。
今回の内容が、日々の経営判断に少しでもお役に立てば幸いです。