まずはリピート率を改善せよ!リピーターを増やし、経営を楽にする方法
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週火曜日に、経営者なら知っておきたい「売上増加」についての知識を解説しています。
中小企業の経営者の皆さまは、日々「売上をどう伸ばすか」「どのようにコストを削減できるか」をお考えだと思います。
特に「新規顧客の獲得」は、多くの経営者にとって目に見えて分かりやすい手段でもあるので、どうしても新規開拓に偏りがちです。
しかし、実は経営を安定させる本当の鍵は「リピート顧客の獲得」にあります。一度リピート客を確保すると売上が安定し、店舗や事業運営もスムーズになるからです。
そこで本記事では、リピート率を高めるメリットや、具体的な顧客ランク分けの方法、さらに効果的なコミュニケーションのアプローチについて詳しく解説します。
「リピート率が高まることで経営にどのような安定効果があるのか?」を今一度確認し、改善の施策を具体的に学んでいただければ幸いです。
リピート率の重要性とインパクト
はじめに、リピート率とは「一度来店・購入してくれたお客さまが、継続して再来店・再購入してくれる割合」を指します。
ここでは、簡単にリピート率がもたらすインパクトを振り返り、「新規開拓」に偏りすぎることの危険性を再認識していただきたいと思います。
新規よりリピートが10倍ラクになる理由
新規のお客さまを獲得するには、広告宣伝費やキャンペーンコスト、営業活動などに多くの時間とお金を投入する必要があります。
一方、すでに自社商品やサービスを利用したことがあるお客さまに対しては、信頼関係や認知度が一定以上あるため、アプローチのハードルが下がります。
その差は大きいときで「新規獲得コストの約10分の1」にまで圧縮できると言われています。
このことからも、リピート率を高めることが、長期的な経営安定に直結する最重要課題であるといえるでしょう。
リピート率アップがもたらす4つの大きなメリット
リピート率の向上には、さまざまな効果があります。ここでは4つに分けて、それぞれのメリットを具体的にご紹介します。
1. マーケティング・営業コストの削減
リピート率が高い店舗や企業では、宣伝や販促に費やすコストが劇的に下がります。
頻繁に新規集客キャンペーンを打たなくても、既存顧客がリピートしてくれるからです。
- 例えば、ポスティング広告やネット広告などの予算が抑えられる
- 過剰なチラシ印刷や値引きキャンペーンの数を減らせる
- 費用が抑えられた分、利益率が向上する
このような効果により、固定費や変動費の削減につながり、経営の効率化が進みます。
2. スタッフ人数の最適化
リピーターが多いと、ある程度の客数予測が立てやすくなります。
特に店舗型ビジネスの場合、スタッフシフトの組み方が安定するのは大きなメリットです。
- 無駄な人件費を抑えられる
- 過不足のない人員配置がしやすくなる
- スタッフ一人ひとりに負担がかかりにくくなり、サービス品質が向上する
リピート客が増えるほど、毎日の売上と来店傾向を読みやすくなり、安定した経営が実現しやすくなるのです。
3. 売上の安定化
リピート客がいると、売上が一定水準を保ちやすくなります。
新規顧客に左右されにくくなるため、天候や季節要因、景気変動による急激な売上減が起きづらくなるのです。
- 月々の変動幅が少なくなる
- キャッシュフローの読みにくさが解消しやすい
- 資金繰りに余裕が出てくる
売上が安定することで、経営者は新たな施策を打ちやすくなります。
4. 新商品開発や新たな投資の余力確保
リピーターが増えて、売上とコストが安定すれば、浮いたお金を新規事業や商品開発、設備投資に回しやすくなります。
- 売上の土台がしっかりしているためチャレンジしやすい
- 新規投資によるリスクを吸収できる体力がつく
- 品質向上や接客強化など、「攻めの投資」が可能になる
単に「今月の売上を追う」だけでなく、未来を見据えた経営が実践できるようになるのが大きな利点です。
たった10%のリピート率改善が売上に大きく響く
「リピート率」といっても、どれくらい改善したらどれほど効果があるのかピンと来ない方もいるかもしれません。
そこで、具体的なイメージをつかむために下記のシナリオをご紹介します。
- リピート率50%の場合:半年後に残るリピート客は、1000人 → 30人
- リピート率60%の場合:半年後に残るリピート客は、1000人 → 80人
- リピート率80%の場合:半年後に残るリピート客は、1000人 → 330人
ここで明らかなように、わずか10%の上昇であっても、半年後には2倍以上もの差が生まれるケースがあります。
さらに、リピート率が80%になれば、50%だったときと比較して10倍以上のリピーター数になるわけです。
リピート率の数値を見るだけでも、その伸びしろの大きさに気づくはずです。
「既存顧客をどうやって再来店・再購入につなげるか?」に注力することで、売上を大きく伸ばせる可能性が広がります。
リピート率を高める3つの柱
リピーターを増やすためには、いくつかの施策を組み合わせる必要があります。ここでは、大きく以下の3つに分類して考えてみましょう。
- 顧客のランク分け
- 効果的なコミュニケーション(接触頻度の設計)
- 構造的リピート(ビジネスモデルの導入)
本記事では「顧客ランク分け」と「コミュニケーション手法」について重点的に解説していきます。
顧客ランク分け:施策の優先度を明確にする
リピート率を上げるには、まず「自分たちのお店・企業にどんな顧客がいるのか」を把握することが重要です。
顧客の状態によってアプローチの仕方が異なるため、正しくランク分けして施策を打ち分ける必要があります。
顧客ランク分けの一例
顧客ランク分けの際に、下記のようなカテゴリを用意すると分かりやすくなります。
- 新規客:一定期間内(例:1ヶ月)に一度だけ購入したお客さま
- 既存客:一定期間内(例:3ヶ月)に3回以上購入しているお客さま
- 有料客:自社売上のトップ20%を占める高頻度・高額購入のお客さま
- VIP客:特別な優遇が必要な最上位の顧客層
こうしたランク分けを行う際は、まず基本となる「平均的な来店サイクル」や「一定期間」を自社に合わせて決めることが大切です。
例えば、1ヶ月に1回が平均となるお店では「1ヶ月内に1度だけの購入=新規客」と定義します。
もし、2ヶ月に1回が普通であれば、それに合わせて期間を設定すれば構いません。
新規客も「再定義」して拾い上げる大切さ
しばらく来店が途絶えている人や、顧客情報を取得していない人も「新規客」とみなして改めてアプローチするのがポイントです。
一度購入経験があっても、相当期間が空いているお客さまは、ほぼ新規の感覚に近いからです。
また、多くの場合、新規客をしっかり既存客に育てることで、売上の底上げが期待できます。
- 新規客 → 既存客 → 有料客 → VIP客
この階段を上ってもらう仕組みこそが、売上向上とリピート率アップの本質といえます。
コミュニケーション設計:接触頻度がファン化のカギ
顧客を「新規客」「既存客」「有料客」に分類できたら、それぞれに合ったコミュニケーション設計を考えましょう。
ここで大事なのは「何を伝えるか?」よりも「どれだけの頻度で伝えるか?」です。
ザイオンス効果(単純接触効果)で好印象を残す
同じ人やモノと接触する機会が増えるほど、その対象を好ましく思うようになる心理現象が「ザイオンス効果(単純接触効果)」です。
これは1968年にアメリカの心理学者ロバート・ザイオンス氏によって広められた理論で、マーケティングでも非常に活用されています。
要するに、お客さまと接触(コミュニケーション)する回数が増えれば増えるほど、親しみや信頼感を獲得しやすいわけです。
頻度を意識し、「忘れられない存在」になるためのコミュニケーション計画を立てることが、リピーター育成の核心となります。
新規客には「価値づくり」を徹底する
新規客の多くは、チラシの割引やキャンペーン価格など、金銭的メリットに惹かれて初回来店しているケースが少なくありません。
そこから既存客へ育てるには、価格以外の魅力(価値) をしっかりと伝える必要があります。
以下のようなポイントを意識してコミュニケーションを行うことで、お店そのものにファン化してもらいやすくなります。
- 一番売れている商品の特長を再紹介
- 一番おすすめの商品を試してもらう
- お店や商品のこだわり、ストーリーを伝える
- 顧客が得られる具体的なメリットを整理して見せる
- 他店や他社との違い(差別化ポイント)を明確化する
このように「価値訴求」へと誘導することで、お客さまが「安さではなく、商品やサービス自体のファンになる」ための第一歩が作れます。
新規客から既存客へ:具体的なメディア活用事例
では、そうしたコミュニケーションを具体的にどんな媒体(メディア)で行えば良いのでしょうか。
ここでは、代表的な3種類のメディアと、それぞれのメリット・デメリット、活用ポイントを紹介します。
1. クーポン
まずクーポンは、最も導入がカンタンで費用がかからない施策の一つです。
ただし、忘れられやすいという弱点もあります。
- メリット
クーポンの発行にかかるコストが比較的低く、すぐに始めやすい。また、新規客の利用ハードルを下げやすい。 - デメリット
期限をつけないと効果が薄れやすく、無期限のクーポンは「存在を忘れられる」ことが多い。また、ばらまくだけでは効果測定が難しい。
クーポンを活用する際は、以下のような取り組みが有効です。
- 期限を必ず設定する
「◯月◯日まで」と区切り、リピートサイクルを短くする。 - 発行と回収を管理する(トラッキング)
クーポン1枚ごとに番号を振るなどして、いつ何番が使われたかを把握する。 - クーポンの形を工夫する
- 二段階クーポン:配布期間と利用期間を分けて、「今回は使えないが次回から使える」と明確化する
- 三枚クーポン:1枚の券に3回分の切り取り線をつけ、一度に複数回の来店を促す
- 名刺型クーポン:名刺サイズにして渡しやすく、財布に入れてもらいやすい形式にする
これらのポイントを組み合わせることで、単なる割引き券ではなく「次に来てもらうための仕組み」として機能させられます。
2. はがき
はがきは、クーポンより高コストですが、よりパーソナルなコミュニケーションができます。
「どんな人にいつ送るか?」をしっかり設計するほど効果が高くなるのが特徴です。
- メリット
お礼や挨拶として送ることで、“売り込み感”を抑えつつ存在をアピールできる。家族や同居人が見る可能性もあり、情報が拡散する余地がある。 - デメリット
クーポンに比べて印刷・送料などのコストがかかるため、ある程度の予算が必要。
以下の点を意識すると、はがき施策の効果を高められます。
- 来店や購入の“お礼”を中心に書く
初回利用のお礼や、キャンペーン参加のお礼など、ポジティブな理由で送ると好感度が高い。 - 挨拶だけで終わらず、次の来店動機を作る
「次回は〇〇をサービスします」「◯日までにお越しいただければ特別な特典を用意します」など、はがきだけの限定感を盛り込み、お客さまが利用しやすいきっかけを提示する。 - 定期的に継続する
1回だけ送って終わるのではなく、来店履歴に合わせて複数回送り、接触頻度を高める。
3. ダイレクトメール(DM)
ダイレクトメールは、はがきよりも情報量を多く盛り込めるのが特徴です。
封筒、レター、パンフレットなど複数の紙面を同封できるため、「商品・サービスの魅力を詳しく伝えたい」ときに適しています。
- メリット
特定の顧客層だけに送ることができ、効果測定(トラッキング)もしやすい。情報量が多いため、商品単価が高い場合やサービス内容が複雑な場合に向いている。 - デメリット
送料や印刷費などのコストが最もかかり、少数に送る場合でも1通あたりの費用が高くなりがち。
DMを送り、お客さまにアクションを起こしてもらうには、以下がカギとなります。
- 送付する理由を明確に書く
「なぜこの手紙をお送りしているのか」を最初に伝えると、“売り込み感”よりも“親近感”がわきやすい。 - メリットを最優先で提示する
商品やサービスの詳しい説明以上に、「どう得をするのか」を見出しや目立つ箇所で強調する。 - 人間味を演出する
できるだけ個人的な手紙のようなトーンを心がけ、機械的にならない工夫をする。差出人が明確な手紙形式にすると読んでもらいやすい。
新規客を既存客に育てるための3つのステップ
ここまでクーポン・はがき・DMの特徴や使い方を見てきましたが、「新規客をどのように既存客へ移行させるのか?」という大きな流れを、改めてステップ形式で整理しておきましょう。
- 顧客情報を入手する
新規のお客さまをフォローするには、氏名や住所、メールアドレスなどの基本情報が必要です。アンケートや名刺交換などを通じて、確実にデータを蓄積します。 - 初回~3回目までの購入(来店)を促す
リピーター育成の最初の壁は「3回目までにいかに再来店(購入)を実現するか」です。ここで失敗すると、そのまま来なくなるお客さまが多いので、クーポンやはがきを重点的に活用し、短いサイクルで複数回足を運んでもらえる工夫が必須です。 - 価格以外の価値をアピールする
新規集客時の割引やキャンペーンに頼りすぎると、お客さまの頭には「ここは安いお店」というイメージだけが残ります。品質や接客、ストーリーなど、“安さ以外”の魅力 をしっかり伝えることが、継続利用やファン化につながるカギとなります。
まとめ:リピート率を高めて長期的な経営安定を実現しよう
ここまでご紹介したように、リピート率を高めることは単なる売上増だけでなく、「経営の安定」や「将来的な成長への投資余力の確保」といった面でも大きな利点があります。
- 新規客依存の経営
常にコストと労力が大きく、不確定要素が多い。 - リピーター中心の経営
コスト削減・売上安定・人員最適化に加え、チャレンジや投資を行うための余力が生まれやすい。
特に小規模な事業ほど、ある程度の「常連客(リピーター)」がいるかどうかで、安定度がまったく違ってきます。
新規獲得に走るだけではなく、今ある顧客をどれだけ満足させ、継続して利用していただけるかを最優先に考え、具体的な施策を組み立てていきましょう。