銀行融資の攻略法:資金調達をする上で重要な3つの業界変化

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

近年、日本の銀行業界は大きな転換期を迎えています。

銀行融資の仕組みや審査基準が従来とは異なる方向に進化しており、企業の資金調達の方法も多様化しています。

この変化は、経営者の皆様にとって新たな機会と課題をもたらしています。

統計から見る銀行業界の現状

平成元年には1,070を超える数があった銀行は、現在525行にまで減少しています。この約30年間で起きた変化は、金融庁主導の経営統合政策によるものです。

また、全法人・個人事業主約381万社のうち、約11%(40万社近く)が返済に課題を抱えているという現状があります。

企業における資金調達の実態

興味深い統計として、完全無借金経営の企業はわずか0.7%に過ぎません。

さらに、全ての融資を即時返済できる企業は約2%程度とされています。

つまり、98%の企業が何らかの形で銀行融資に依存している状況です。

銀行融資における三つの重要な変化

1. 経営統合の加速

金融庁は、地方銀行を中心にさらなる経営統合を進める方針を示しています。

地方経済の縮小や人口減少を背景に、銀行の経営基盤強化が急務となっているためです。

この変化は、企業の資金調達先の選択肢に大きな影響を与える可能性があります。

経営統合の影響

地域金融機関の合併により、融資審査基準の厳格化や取引条件の変更が予想されます。

一方で、統合による経営基盤の強化は、より大規模な融資や専門的なサービス提供を可能にする可能性もあります。

企業側の対応策

取引銀行の経営統合に備え、複数の金融機関との関係構築を検討する必要があります。

特に、メインバンク以外の金融機関との取引開始は、リスク分散の観点から重要です。

2. 事業性評価融資の重要性の高まり

従来の不動産担保中心の融資から、事業の将来性を重視する評価方式へと変化しています。

銀行は以下の観点から企業を評価するようになっています:

市場分析の重視

3C分析や4P分析など、マーケティング手法を活用した事業環境の分析が重要視されています。

特に、競合他社との差別化要因や市場シェアの状況などが注目されます。

経営課題の把握

財務面だけでなく、人材育成や技術力、経営者の後継者問題なども評価の対象となっています。

これらの課題に対する具体的な対応策の有無が審査のポイントとなります。

成長可能性の評価

新規事業の展開計画や、既存事業の拡大戦略など、将来の成長性に関する具体的な見通しが重要です。

特に、数値計画の根拠となる具体的な施策の内容が重視されます。

3. フィンテックの台頭

デジタル技術の進化により、従来の銀行融資以外の資金調達手段が増加しています。

この変化は、特に中小企業の資金調達に新たな可能性をもたらしています。

デジタル技術の活用

ブロックチェーン技術やAIを活用した与信審査など、新しい技術による融資の自動化・効率化が進んでいます。

これにより、融資の審査期間短縮や手続きの簡素化が期待されます。

新しい取引形態

キャッシュレス決済の普及により、売上金の即時入金や、決済データに基づく融資など、新しい形の資金調達が可能になってきています。

セキュリティ対策

デジタル化に伴うセキュリティリスクへの対応も重要な課題です。

特に、個人情報や取引データの保護に関する体制整備が求められています。

事業承継時の資金調達における重要ポイント

事業承継を検討する経営者が見落としがちな点があります。

承継には大きく3つの側面があり、それぞれに異なる資金調達の課題が存在します。

財産の承継(株式等の資産)

自社株式の評価額や納税資金の確保が重要な課題となります。

特に、株価が高騰している場合は、相続税・贈与税の負担も考慮した計画が必要です。

経営の承継(代表権の移転)

後継者の育成期間中の運転資金や、新体制での経営計画に基づく必要資金の調達が課題となります。

特に後継者の個人保証の問題は慎重な検討が必要です。

借入金の承継(連帯保証債務)

経営者保証に関するガイドラインを踏まえ、個人保証の解除や引継ぎについて金融機関との調整が必要です。

特に、事業承継時の借り換えや保証人の変更には十分な準備が求められます。

今後の銀行融資動向と対策

融資審査の変化への対応

銀行の融資審査基準は年々変化しており、より詳細な事業分析が求められるようになっています。

事業計画の精緻化

単なる数値計画だけでなく、その実現可能性を裏付ける具体的な施策や、市場分析に基づく売上予測が重要視されています。

特に、重要な取引先との契約状況や、業界内でのポジショニングなども審査のポイントとなっています。

財務基盤の強化

自己資本比率の向上や、収益性の改善など、財務体質の強化が重要です。

特に、運転資金の効率化や、不採算事業の見直しなども求められています。

経営の透明性向上

経営指標の可視化や、定期的な情報開示など、企業経営の透明性を高める取り組みが評価されます。

月次での経営データの提供や、経営課題への対応状況の報告なども重要です。

新たな資金調達手段の検討

従来の銀行融資だけでなく、様々な調達手段を組み合わせることで、より安定的な資金繰りが可能となります。

クラウドファンディングの活用

新規事業や設備投資などの資金調達に、クラウドファンディングを活用する企業が増えています。製品やサービスのPR効果も期待できます。

ファクタリングの検討

売掛債権を活用した資金調達により、運転資金の確保が可能です。特に、大手企業との取引がある場合は、有利な条件での調達が期待できます。

電子記録債権の活用

支払サイトの長い取引先との決済に、電子記録債権を活用することで、資金繰りの改善が図れます。また、銀行での割引も可能です。

成功する資金調達のための具体的アプローチ

1. 事前準備の重要性

銀行融資を成功させるためには、入念な事前準備が不可欠です。

金融機関は、企業の現状分析だけでなく、将来性についても慎重に審査を行います。

決算書の適切な作成と分析

過去3期分の決算書を用意し、収益性や安定性を示す経営指標の推移を説明できるようにしましょう。

売上総利益率や経常利益率の推移について、業界平均との比較分析も有効です。

具体的な事業計画の策定

市場分析、競合分析に基づいた具体的な数値計画を準備します。

特に、売上予測については、既存顧客からの収益と新規顧客の獲得計画を明確に区分して説明できることが重要です。

明確な資金使途の説明

設備投資の場合は、その必要性と投資回収計画を具体的に示します。

運転資金の場合は、資金繰り表を用いて必要額の根拠を明確にし、季節変動なども考慮した計画を立てましょう。

2. 銀行との関係構築のポイント

融資は一度きりの取引ではなく、長期的な関係性の構築が重要です。

日頃からの積極的なコミュニケーションを心がけましょう。

定期的な経営状況の報告と共有

月次または四半期ごとに、試算表や資金繰り表を提出し、経営状況を共有します。

特に、計画と実績の差異については、その要因分析と対策を含めて報告することで、信頼関係が深まります。

将来の事業展開についての相談

新規事業や設備投資は、構想段階から相談することをお勧めします。

銀行側からの助言や、取引先の紹介など、様々な支援を受けられる可能性が高まるためです。

課題発生時の早期相談

業績悪化の兆候が見られる際は、即座に相談することが賢明です。

問題が深刻化する前であれば、金融機関も柔軟な支援を検討しやすく、また、対応の選択肢も広がります。

3. 複数の調達手段の活用

リスク分散と調達手段の多様化は、安定した経営基盤を築く上で重要な要素です。状況に応じて適切な手段を選択しましょう。

複数の金融機関との取引

メインバンクとの関係を大切にしながらも、複数の金融機関と取引を持つことで、リスク分散が可能になります。

また、金融機関同士の競争原理が働き、より有利な条件を引き出せる可能性も高まります。

政府系金融機関の活用

日本政策金融公庫などの政府系金融機関は、民間銀行に比べて長期の設備資金などが調達しやすい特徴があります。

さらに、創業支援や事業承継など、特別融資制度も充実しています。

信用保証協会の利用

物的担保が不足する場合でも、信用保証協会の保証を活用することで、必要な資金を調達できる可能性があります。

特に創業期や新規事業展開時には、積極的な活用を検討しましょう。

まとめ:これからの時代に求められる資金調達戦略

変化する金融環境の中で、成功する資金調達には以下の点が重要です:

事業の将来性アピール

財務データだけでなく、事業の成長性や市場での優位性を具体的に示すことが重要です。

特に、デジタル化への対応や、SDGsへの取り組みなども評価のポイントとなっています。

多様な調達手段の確保

従来型の銀行融資に加え、新しい金融サービスも積極的に検討しましょう。

状況に応じて最適な調達手段を選択できる体制を整えることが重要です。

事業承継を見据えた対応

後継者の育成と並行して、借入金の承継についても計画的に準備を進めることが必要です。

特に、経営者保証の解除や見直しについては、早めの対応が望まれます。

金融環境の変化に適応しながら、持続可能な事業成長を実現するための戦略的な資金調達を心がけましょう。

特に、従来の銀行融資だけでなく、新しい資金調達の手段についても積極的に検討することが、これからの経営には欠かせません。

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