税務調査官の思考回路を知る ~外注費否認の実態とその対策~

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

前回は、外注費と給与の区分における5つの基本的な判断基準をご説明しました。

しかし実際の税務調査の現場では、調査官は形式的な判断基準を重視する傾向があります。

今回は、調査の現場で実際に行われている判断の実態と、経営者の方が取るべき具体的な対策についてお伝えします。

税務調査での主な否認理由

調査官が外注費を否認する際、よく持ち出される理由は以下の3つです。それぞれの背景と、経営者として準備すべき対策を見ていきましょう。

1. 「外注先が確定申告していない」という理由

税務調査で最もよく耳にする否認理由が、「支払先が確定申告していないので、給与として源泉徴収すべきだった」というものです。

確定申告の有無は客観的な事実であり、納税者側からの反論が難しいため、調査官が好んで使用する否認理由となっています。

実際の調査では、調査官は事前に外注先の申告状況を確認していることがほとんどです。

対策としては:

  • 契約時に確定申告義務を説明する
  • 確定申告の意思確認書を作成する
  • 初回の確定申告期限後に提出を確認する
  • 確定申告のサポート体制を整備する

このように、外注先の確定申告状況を把握・管理することは、税務調査対策の基本となります。

2. 「適切な請求書がない」という理由

二つ目の典型的な否認理由は、請求書の形式に関するものです。

調査官は「他の仕入先のような正式な請求書が発行されていない」ことを指摘します。

特に、毎月定額の請求が続く場合や、請求書の体裁が社員の給与明細に近い場合には、給与認定のリスクが高まります。

対策としては:

  • 一般の取引先と同様の請求書フォーマットを作成する
  • 業務内容や成果物を具体的に記載する
  • 毎月の作業報告書を添付する
  • 金額の根拠となる単価表や見積書を準備する

請求書は取引の実態を示す最も基本的な証拠書類です。形式面での整備を怠らないようにしましょう。

3. 「支払日が給与と同じ」という理由

三つ目は、支払のタイミングに関する指摘です。

毎月の給与支給日と同じタイミングでの支払いは、外注費ではなく給与としての性質を強く示す証拠となります。

私の経験でも、この点は調査官が特に注目する項目の一つでした。

対策としては:

  • 給与支給日とは異なる支払日を設定する
  • 検収後の支払いルールを明文化する
  • 支払サイトを一般の仕入先と統一する
  • 月末締め翌月末払いの支払条件を採用する

これらの支払条件の見直しは、一度実施してしまえば運用は比較的容易です。早めに対応することをお勧めします。

調査官が注目する書類と管理のポイント

税務調査で最初にチェックされる書類と、その管理のポイントをご説明します。

1. タイムカードとIDカード

税務調査で最も早い段階でチェックされるのが、タイムカードやIDカードの使用状況です。

社員と同じ出退勤管理を行っていると、それだけで雇用関係の存在を疑われる大きな要因となります。

特に、始業・終業時刻の管理や、遅刻・早退の報告を求めているケースは要注意です。

対策としては:

  • セキュリティ管理と勤怠管理を分離する
  • 作業時間ではなく成果物での管理に切り替える
  • 必要な場合は訪問記録として別様式を作成する
  • 社員用と外注先用で異なる管理ルールを設定する

入退室管理は企業のセキュリティ上必要な場合も多いですが、勤怠管理との線引きを明確にすることが重要です。

2. 業務指示のメール

調査官は業務指示の方法にも注目します。

毎日細かい指示を出していたり、日報での報告を求めていたりすると、指揮命令関係の存在を指摘される可能性が高くなります。

私の経験でも、メールでのやり取りが給与認定の決め手となったケースを多く見てきました。

対策としては:

  • プロジェクト単位での業務依頼に変更する
  • 業務の進め方は先方の裁量に委ねる
  • 連絡手段や報告頻度を契約書で明確にする
  • 細かい指示は書面ではなく打ち合わせで行う

メールは証拠として残りやすいため、書き方や用語の使い方にも注意を払う必要があります。

3. 経費精算書

外注先との経費精算の方法も、調査官が重視するポイントの一つです。

社員と同じような経費精算規程を適用していたり、会社の経費精算システムを利用させていたりすると、雇用関係を疑われる原因となります。

対策としては:

  • 経費込みの報酬体系に移行する
  • 実費精算の場合は請求書方式を採用する
  • 社内規程とは別の精算基準を設ける
  • 交通費等は予め報酬に含める形に変更する

経費の負担関係は、外注取引の実態を示す重要な要素です。社員との違いを明確にした運用を心がけましょう。

契約書の見直しポイント

1. 業務内容の記載

契約書における業務内容の記載は、外注取引の実態を最も明確に示す部分です。

「一般事務」「システム開発支援」といった曖昧な記載では、実際の業務実態を説明できません。

税務調査では、契約書の業務内容と実態が一致しているかが重点的にチェックされます。

対策としては:

  • 具体的な成果物や納品物を明記する
  • 業務の範囲と期限を明確に定める
  • 作業場所や時間は先方判断である旨を記載する
  • 他社との取引制限がない旨を明確にする

業務内容は、後日の税務調査で説明できる程度まで具体的に記載することが重要です。

2. 報酬の決定方法

報酬の決定方法も、給与との区分を明確にする重要な要素です。

月額固定の報酬を定めると給与と誤解されやすいため、成果物や作業内容との関連性を明確にする必要があります。

対策としては:

  • 成果物との関連性を具体的に記載する
  • 検収基準と報酬支払いの関係を明確にする
  • 単価表や見積基準を添付する
  • 報酬額の変更手続きを定める

報酬の決定方法は、外注取引としての独立性を示す重要な証拠となります。

3. 契約期間の設定

契約期間の設定方法によって、雇用契約との類似性を指摘されるリスクが変わってきます。

特に自動更新条項は、長期継続的な雇用関係との類似性を指摘される原因となりやすい項目です。

対策としては:

  • プロジェクトや業務内容に応じた期間を設定する
  • 自動更新条項は原則として避ける
  • 定期的な契約内容の見直し機会を確保する
  • 契約終了時の成果物の確認方法を定める

契約期間は、業務の実態に合わせて適切に設定することが重要です。

まとめ

税務調査での外注費否認を防ぐには、形式的な基準への対応が重要です。

  • 請求書や支払時期など、形式面の整備
  • 業務指示や管理方法の見直し
  • 契約書の具体的な記載

次回は、これまでご説明してきた内容を踏まえ、業種や職種による判断基準の違いについて、具体的な事例を交えながら解説していきます。

特に、保険外交員、一人親方、士業の方々に関する特有の注意点について詳しくお伝えする予定です。

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