チェックリストとマニュアルの作り方 – 組織の平均点を上げる仕組み作り
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週木曜日に、経営者なら知っておきたい「業務効率」についての知識を解説しています。
「マニュアルがあると融通が利かなくなる」-—経営者としてこのような考えを持っていませんか?
しかし、熟練者の「当たり前」は、実は長年の経験から得られた暗黙知の結晶です。
これを「形式知」に変換し、組織全体の品質を上げていくことこそが、チェックリストとマニュアルの本質的な目的です。
チェックリストの本質を理解する
チェックリストの目的は「最小の時間で経済品質を実現すること」です。
ここでいう経済品質とは、時間とコストの制約の中で、優先順位を考慮した品質のことを指します。
「最高品質を目指すべき」という意見もあるでしょう。しかし、時間もコストも気にせず品質だけを追求するのは、ビジネスとしては非現実的です。
例えば料理人が趣味で作る料理と、レストランで提供する料理では、おのずとアプローチが変わってきます。
チェックリストが実現する3つの効果
「熟練者の仕事の勘どころを真似する装置」としてのチェックリスト。
具体的には以下の効果が期待できます:
- 思考停止状態でのスピードアップ
- 全作業を一気に完了
- その後、重要ポイントだけを確認
- 特急列車方式での作業実現
- 品質の標準化
- 熟練者の判断基準の可視化
- 重要項目の確実な確認
- ミスの未然防止
- 無罪放免の基準作り
- 責任範囲の明確化
- 依頼者と実行者の認識統一
- 改善ポイントの特定
マニュアルで実現する組織力の向上
マニュアルの本質は「普通の人の平均点を上げること」です。
多くの会社では、売上の8割をスーパースターと呼ばれる一部の社員が生み出しています。
しかし、このスーパースターが退職したとたんに業績が急落する—これでは組織として危険です。
なぜマニュアルが必要か
例えば「マクドナルドでハンバーガー50個」という注文に対して「お持ち帰りですか?」と聞いてしまう—よく引き合いに出される「マニュアル人間」の例です。
しかし、これはマニュアルの問題ではなく、むしろマニュアルがあれば防げたケースです。重要なのは、マニュアルが「判断基準」を提供するという点です。
「常識で考えろ」というのは、実は新人にとって最も厳しい要求なのです。
効果的なマニュアル作成の3つのポイント
- 動作ごとの明確な記述
- 「何を」「どうする」を具体的に
- できるだけ数値で明示
- 例:「縁から1センチのところまで水を入れる」
- 黒丸による区分け
- 全員が見るべき項目:黒丸
- 新人だけが確認する項目:白丸
- フィルターで必要項目だけを表示
- 現状の業務を疑う
- 本当に必要な作業か
- より効率的な方法はないか
- 例:「税務調査用の見出し付けは必要か?」
大掃除からはじめる
マニュアル作成の前に、まず不要な業務の洗い出しが重要です。
具体例を挙げましょう。税理士事務所での帳簿作成。これまで「見やすさ」のために、インデックスを貼る作業を行っていました。
しかし、誰のために見やすくしているのか?実際に見るのは税務調査の時だけ。であれば、その時に必要なものを用意すれば十分なのです。
このように、当たり前と思っている業務にこそ、効率化のヒントが隠れています。
マニュアルとチェックリストの使い分け
ここまでマニュアルとチェックリストについて解説してきましたが、その使い分けも重要です。
マニュアル:
- 仕事の手順を示す
- 判断基準を提供する
- 教育ツールとして機能
チェックリスト:
- 品質確認の基準
- スピード向上の仕組み
- 責任範囲の明確化
実装のステップ
理想的なマニュアルやチェックリストは、一朝一夕には作れません。
むしろ拙速に作ることで、形骸化したツールになってしまう危険性があります。
私も、試行錯誤を重ねて現在の形にたどり着きました。以下に、効果的な実装のステップをご紹介します:
- 現状業務の棚卸し
- 必要な業務の特定
- 不要な作業の廃止
- 効率化の余地の確認
この棚卸しの過程で、意外な発見があるものです。
例えば、ある税理士事務所では、この作業を通じて従来の業務の30%が実は不要か、より効率的な方法があることが判明しました。
- 基準の明確化
- 要求される品質の定義
- 重要ポイントの抽出
- 数値基準の設定
基準の明確化は、チームの認識を統一する重要なプロセスとなります。
「これくらいは分かるだろう」という曖昧な基準ではなく、誰もが理解できる明確な基準を設定することで、組織全体の品質向上につながります。
- ツールの作成
- Googleスプレッドシートの活用
- 共有設定の調整
- 定期的な見直し
作成したツールは、定期的な見直しと更新が必要です。
私は四半期ごとに全体のレビューを行い、より良い方法がないか検討することを推奨しています。
まとめ:仕組み作りがもたらすもの
チェックリストとマニュアルは、単なる業務の標準化ツールではありません。それは組織の成長に欠かせない経営の基盤となるものです。
特に重要なのは、これらのツールが「人」を育てるという点です。熟練者の暗黙知を形式知に変換し、組織全体で共有できる形にする。
そして、その過程で業務の無駄を発見し、より効率的な方法を見出していく。このサイクルこそが、組織の持続的な成長を支えます。
私のコンサル先でも、チェックリストとマニュアルの導入により、新人の立ち上がりが早くなっただけでなく、ベテランスタッフの業務効率も向上しました。
さらに、「なぜそうするのか」という本質的な議論が増え、業務改善のアイデアが自然と生まれるようになってきています。
このように、適切な仕組み作りは、単なる効率化にとどまらず、組織全体の知的生産性を高める礎となるのです。
ぜひ、あなたの組織でも、今回ご紹介した方法を参考に、独自の仕組み作りにチャレンジしてみてください。
次回は「第5回:クラウドツール活用 – コスト削減と業務効率化の両立」として、具体的なツールの活用法について解説していきます。