スーツ代は経費になるのか?税理士が解説する実務の判断基準

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

経営者の皆さまは、「どこまで経費と認められるのか」「これは税務署に否認されないのか」といった不安や疑問を抱えることが多いのではないでしょうか。

特にスーツなどの衣服にかかる費用は、ビジネスで必要である一方でプライベートでも使用できることから、経費として計上できるか否かの判断が曖昧になりがちです。

この記事では、中小企業経営者にとって関心の高い「スーツ代の経費計上」を例にとり、個人事業主と法人での違いや、節税対策としてのグレーゾーンについて解説します。

従業員10名以下の規模である企業の場合でも、正しい知識を身につけることは大切ですので、ぜひ参考にしてください。

経費計上の判断に悩む経営者の現状

まずは、なぜスーツ代の経費計上に関する悩みが多いのか、その背景を整理してみましょう。

中小企業の経営者や個人事業主の場合、ビジネスとプライベートの境界線がどうしても曖昧になりやすいという特徴があります。

とりわけ、衣服はビジネスシーンだけでなく日常生活でも着ることがあるため、経費として認められるかどうか悩むケースが多いのです。

中小企業の経営者に多い共通の悩み

日々の経費計上の判断が難しい背景には、次のような事情が考えられます。

  • 税務知識の不足
    経理担当者を十分に雇えないため、経営者自身が経理も兼務しているケースが多く、税務や経費計上に関する専門知識が不十分になりがち。
  • ビジネスとプライベートの区別の難しさ
    会社名義の支払いであっても、プライベートに利用しているかどうかの線引きが曖昧になることがある。
  • 税理士への相談のタイミングが遅れる
    何らかの理由で税理士に気軽に相談しづらい、あるいは節約のために税理士契約を控えているなど、疑問点があっても解決が後回しになりがち。

このように、経営者の悩みを解決するには「何が経費として認められ、何が認められないのか」を正しく理解し、かつ適切な書類や根拠を揃えておくことが大切です。

個人事業主と法人での経費計上の違い

スーツなどの衣服にかかる費用については、個人事業主と法人で考え方が異なるため、それぞれの違いを理解しておく必要があります。

個人事業主の場合

個人事業主の場合、スーツ代などの衣服費用は原則として経費として認められません。

その理由は、「支出が事業の売上増加に直接関連している必要がある」と考えられているためです。

スーツはビジネスの場面だけでなく、プライベートでも着用できることが多いため、

単に「仕事で必要だと自分が考えている」だけでは、第三者から見て事業性を確認しづらく、税務署に否認される可能性が高いのです。

法人の場合

一方、法人の場合は、経費計上においてより幅広く認められる可能性があります。

法人名義で購入したスーツが「業務に使用するために必要」だと客観的に説明できるケースでは、経費として計上しやすくなります。

ただし、後述するように「業務でしか着られない」「会社の制服と明確に定義されている」といった条件を満たす必要があります。

スーツ代が経費計上できるケース

法人であっても、スーツ代をいきなり経費として計上できるわけではありません。

税務署の一般的な見解では「スーツはプライベートでも着用可能であるため、原則経費としては認めない」というスタンスがあります。

しかし、以下のような場合には、経費として認められる可能性が高まります。

  1. 業務上スーツ着用が必須の職種
    営業職やセミナー講師、接客業など、スーツ着用が会社として義務付けられている場合は、業務との関連性が明確になります。たとえば、金融関係の営業など「スーツがないと仕事が成立しない」という職種であれば、スーツ代を経費として認められる余地があります。
  2. 会社の制服として規定されている
    社員全員にスーツ着用を義務付け、そのスーツを制服として位置づけている場合も、経費計上のハードルは下がります。この場合は、スーツであっても“制服”とみなされ、私用との区別がしやすいからです。
  3. 業務用途であることが客観的に区別できる
    プライベートと業務で着用する衣服を分ける工夫がなされていれば、経費計上の根拠は強まります。たとえば、スーツに会社名やロゴマークをあしらう、私用では着用できないようなカラーリングや生地を使うなどの工夫です。

スーツ代を福利厚生費として計上するための条件

スーツ代を福利厚生費として計上する方法も考えられます。

一般的に、制服や作業着などが福利厚生費で落とせることは知られていますが、スーツの場合も条件を満たすことで認められることがあります。

ここでは、税務上「福利厚生費」としてみなされるための代表的なポイントを整理します。

  1. 勤務場所でのみ着用し、私用での着用がない(またはできない)
    たとえば、工場で使う作業着のように「明らかに仕事専用」とわかる衣服に該当すれば、私用との切り分けが明確になります。
  2. 職場の全員(または同じ業務の従業員全員)を対象として支給される
    特定の役職者や一部の従業員だけを対象にしてしまうと、役員賞与や給与として扱われる可能性があります。全員一律で支給し、福利厚生の一環だと示すことが大切です。
  3. 業務用であることが客観的に判断できるデザインやロゴなどがある
    社名やロゴマークを入れる、一般的な私服としては着られないような仕様にするなど、「これは業務用だ」と外部から見ても明確になる工夫が効果的です。

節税対策におけるグレーゾーンの考え方

経営者としては、節税対策を考えたときに「どこまでが合法の範囲内で、どこからが脱税にあたるのか」が大きな関心事になります。

実は、税務の世界には明確に白黒と分けられない“グレーゾーン”が多く存在します。

グレーゾーンというと悪いイメージを抱きがちですが、合法的な範囲内での節税違法行為としての脱税はまったく別物です。

グレーゾーンを避けるのではなく、正しく認識する

スーツ代の経費計上も、グレーゾーンの代表的な事例と言えます。

ただし、だからといって「怖いから何も計上しない」というのは、企業の資金繰りや税負担の観点で得策とは言えません。

必要な経費を合法的に計上することは、事業を安定的に運営するうえでも重要な経営判断です。

“必要性”と“根拠”が最大のカギ

グレーゾーンへの対応で大切なのは、その支出が本当に事業に必要なものであることを客観的に示せるかどうかです。

とりわけ、税務調査などが行われる場合に「なぜこの費用を計上したのか」「業務との関連はどこにあるのか」を

具体的かつ合理的に説明できれば、経費として認められる可能性は高まります。

実践的なアクションプラン

それでは、実際にスーツ代をはじめとしたグレーゾーンの経費計上に対して、どのように準備しておけばいいのでしょうか。

ここでは、すぐに取り組めるアクションプランを4つ挙げてみます。

1. 事業上の必要性を改めて評価する

まずは「スーツが本当に事業として必要かどうか」を客観的に検討しましょう。

営業先でのイメージアップが必須、顧客との商談で着用することが求められるなど、具体的にビジネスとの関連性を挙げておくと説得力が増します。

2. 根拠資料を整備し、保管する

スーツの購入時の領収書やレシートをしっかり保管し、購入した目的や着用シーンのメモを残しておくと、税務調査の際に説明がスムーズです。

さらに、会社規定や就業規則などで「スーツ着用義務」を明文化しておくと、一貫性を示しやすくなります。

3. 税理士に相談し、意見を仰ぐ

不明点や判断が微妙な場合には、税理士に相談するのが最も確実です。

専門家のアドバイスを得ることで、グレーゾーンがどの程度容認されるのか、また書類準備や会計処理の方法など、具体的に知ることができます。

4. 経費計上の方針を明確化し、一貫性を持って運用する

一度スーツ代を経費として計上するのであれば、今後も同じ方針で一貫して運用することが大切です。

毎回曖昧な基準で計上したり、不定期にやり方を変えたりすると、税務署に不信感を与える可能性があります。

まとめ

スーツ代の経費計上は、個人事業主と法人で取り扱いが異なるうえ、グレーゾーンとして認識されることが多い項目です。

しかし、「業務上の必要性が客観的に説明できるかどうか」という点に焦点を当て、

適切な証拠資料や運用ルールを整備しておけば、合法的な節税対策としてスーツ代を経費に含められる余地は十分にあります。

経営者としては、「必要な経費はしっかりと主張し、不要な経費はプライベートとの線引きを明確にする」というバランス感覚が求められます。

税務の大半はグレーゾーンであるとも言われますが、正当な範囲内での節税は企業の財務体質を良くし、事業の成長につなげるために欠かせません。

日頃から税理士とのコミュニケーションを密に取り、疑問点や不安があれば積極的に相談する姿勢を持って、ぜひ自社の経費計上を最適化していきましょう。

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