2023年改正で変わった税務調査における簿外経費の新ルールと対応戦略

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

2023年から施行された税制改正によって、税務調査の現場で「簿外経費」が損金・必要経費として認められるかどうかが、従来よりも厳しく審査されるようになりました。

なかでも、仮装・隠蔽による申告や無申告の場合には、簿外経費を後から主張しても認められないケースが増えています。

従来の税務調査と比べて大きな転換点となる可能性があるため、本記事では以下の内容を中心に整理して解説します。

  • 簿外経費をめぐる新ルールの概要
  • 簿外経費が認められない要件と、逆に認められるケース
  • 税務調査における立証責任の原則
  • 改正に合わせて経営者がとるべき具体的な対応策
  • 認められにくい経費の具体例

これらを理解しておくことで、税務調査のリスクを最小限に抑え、事前の備えを充実させることが可能になります。

2023年の税制改正と簿外経費の新ルール

まず押さえておきたいのが、2021年12月の税制改正大綱に盛り込まれた「記帳義務の不履行及び特に悪質な納税者への対応」が、2023年より本格的に運用開始された点です。

ポイントとなるのは、仮装・隠蔽または無申告の場合に、追加的に主張される簿外経費が原則として認められなくなる新規定が導入されたことです。

従来の運用と変更点

従来の税務調査では、たとえ帳簿に記載のない経費であっても、後日になって納税者が「この経費も必要経費(損金)として算入すべきであった」と主張すれば、その主張の裏付けを税務署が反面調査や証憑類の確認を通じて検証するケースがありました。

しかし、今回の改正によって、仮装・隠蔽等が疑われるケースでは、そもそも調査担当者がこうした「事後的に申告される簿外経費」を認めない方針を取りやすくなりました。

これにより、悪質な脱税行為への対応が強化されると同時に、税務署側の調査コストも削減できるという狙いがあります。

簿外経費が認められない三つの要件

新制度の下で、簿外経費が損金・必要経費として認められなくなるのは、次の三つの要件をすべて満たす場合です。

  1. 仮装・隠蔽の申告または無申告であること
    いわゆる重加算税の要件と同様に、意図的な虚偽申告や申告自体を行わない場合が該当します。
  2. 簿外経費であること
    帳簿上に記載がなく、企業側が事後的に「この支出も経費に入れてほしい」と主張するものが対象です。
  3. 経費の支出を書類等で証明できないこと
    領収書や契約書、取引先とのやり取りを示すメール・請求書など、支出の事実を裏付ける書類が一切ない場合には、経費の根拠を示すことができません。

これら三つの要件がそろうと、たとえ実際に支出があったとしても、税務上は経費として認められないリスクが非常に高くなります。

ただし、新規定が適用されるのはあくまで「仮装・隠蔽」や「無申告」のケースです。

通常の修正申告においては、従来どおり重加算税の要件を満たさない限り、帳簿不備の経費も状況次第では認められる可能性があります。

簿外経費が認められるケース

新規定は厳格化をもたらす一方で、仮装・隠蔽や無申告などの悪質性があると疑われる場合でも、以下のような事情が確認できれば簿外経費が認められる可能性があります。

  • 帳簿書類等によって経費として明らかに認められる場合
    経費計上の根拠となる契約書や領収書、取引先とのやり取りを示す文書がきちんと保管されていれば、事後的でも認められる余地があります。
  • 取引の相手方が明らかであり、反面調査等によって支出が裏付けられる場合
    税務署が反面調査を行い、取引先の証言や相手方の帳簿から経費が実在すると裏付けが取れれば、簿外経費であっても認められやすくなります。

このように、新制度下でも「実態が証明できる簿外経費」については一定程度救済措置があることを理解しておきましょう。

しかしながら、悪質な仮装・隠蔽と判断される場合は、そもそも調査担当者が詳細な確認に乗り出しにくくなる可能性も考えられます。

結果として、経費を証明するハードルが高くなる点に注意が必要です。

税務調査における立証責任の原則

税務調査においては、原則として課税要件が充足していることを税務署側が立証しなければなりません。

国税通則法第24条(更正)では、税務署長が「その調査により」課税標準や税額を更正することができると定められています。

この条文からも、納税者に追加課税を行うためには、税務署が事実認定を行い、その根拠を示さなければいけないことがわかります。

つまり通常のケースでは、税務署側に「この経費は認められない」と立証する責任があり、納税者はその指摘に対して反論や証拠を提示する立場にあります。

ただし、今回の改正では、仮装・隠蔽または無申告とみなされた場合には一部でこの原則が変わり、納税者が経費であることを自ら立証しなければならない場面が増えました。

悪質なケースにおける立証責任の転換と対応策

新制度では、悪質な納税者(仮装・隠蔽や無申告)と見なされると、追加的な簿外経費の算入を主張する際に、納税者自身が「その経費が妥当である」と立証しなければならない場合があります。

これは、従来の「税務署側に立証責任がある」という原則が部分的に転換されるという点で大きな変更といえるでしょう。

この変更への対応策としては、以下のようなポイントが挙げられます。

いずれも、実際の取引の経緯や内容を客観的に説明できる資料を日頃から整備しておくことが重要です。

  • 適切な記帳と証憑書類の保管を徹底する
    経費の支出が確認できる領収書や契約書を日常的に整理し、スムーズに提出できる体制を整えましょう。
  • 取引の実態を明確に説明できる資料を準備する
    大きな金額が動く取引や、経費計上にあたって特殊な事情がある場合には、補足説明となるメールや打ち合わせ記録なども保存しておくと有効です。
  • 特に高額な経費については、取引の相手方や内容を明確にしておく
    反面調査が行われるリスクが高い高額取引の場合、相手先の情報や取引実態を正確に把握しておき、必要に応じて相手先に協力を仰げる関係を築いておくと安心です。

税制改正の適用時期

今回の税制改正は、法人・個人でそれぞれ適用開始時期が異なります。具体的には以下の通りです。

  • 法人の場合
    2023年1月1日以後に開始する事業年度から適用
    (例:決算期が3月であれば、2023年4月1日以後開始の事業年度が該当)
  • 個人の場合
    2023年分以後の所得税から適用

つまり、2023年春以降に本格的に行われる税務調査では、新制度が適用されるケースが出てくる可能性が高いということです。

税務調査で認められない経費の具体例

ここからは、新制度の下で特に認められにくい経費の例を挙げます。

以下に挙げる項目は従来からも否認リスクが指摘されていましたが、今回の改正によってさらに厳しくチェックされる可能性があります。

  • 取引相手が特定できない交際費
    誰と会食したか、何の目的で支出したかが曖昧なままレシートだけを提出しても、経費として認められにくいでしょう。
  • 業務との関連性が不明確な経費
    仕事とは関係の薄い娯楽費用や、私的な出費が混在しているものは、税務署から厳しく疑われます。
  • 領収書等の証憑がない支出
    「実態はあるが証憑を紛失してしまった」というケースでも、新制度下では特に強い証明責任が求められるおそれがあります。
  • 役員への過大な報酬(業務内容と見合わない場合)
    役員に対する給与や報酬が相場からかけ離れて高いと、経費として否認されやすくなるため注意が必要です。

上記のような費目は、たとえ実際の支出があったとしても、証憑類が不十分だったり、取引相手や内容が不透明であったりすると、税務調査で簡単に「経費不認定」の判定を受けかねません。

改正後はなおさら、このような点について入念に説明できる材料を用意しておくことが重要です。

まとめ

2023年から本格運用が始まった税制改正によって、税務調査で「簿外経費」と呼ばれる事後的な経費主張が認められないケースが拡大しています。

とくに仮装・隠蔽や無申告など悪質な納税者とみなされた場合には、納税者自身が経費を立証しなければならない場面が増え、従来よりも厳しいハードルを越える必要が出てきました。

しかし、改正後であっても経費として計上できる根拠資料(契約書・領収書など)がしっかりと整備され、取引相手の存在や経費の実態が客観的に認められれば、簿外経費であっても損金・必要経費として認められる可能性があります。

要は、日頃から適切な記帳と証憑管理を行い、何かあったときにも冷静に説明できる準備をしておくことが、リスク軽減の最大のカギになるのです。

最後に、税務調査はあくまで企業の経営内容や納税状況を確認するための手続きであり、必ずしも「違反を見つけるためだけの場」ではありません。

だからこそ、定期的に自社の経理体制を点検し、不備があれば早めに修正申告や専門家への相談を行っておくことで、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。

本記事の内容を参考に、読者の皆様にはぜひ自社の経理や税務処理を再チェックしていただき、万全の体制で税務調査に臨んでいただければ幸いです。

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