人手不足は経営改革のチャンス!業務効率化で実現する成長戦略

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週木曜日に、経営者なら知っておきたい「業務効率」についての知識を解説しています。
日本全体で深刻化している人手不足は、多くの企業にとって採用活動を難しくする要因となっています。
一方で、人手不足に悩まされずに安定したビジネスを続けている企業があるのも事実です。
なぜ、同じ環境下にありながら、これほどまでに差がつくのでしょうか。
本記事では、人手不足に強い企業が共通して行っている「業務の見直し」や「業務効率化」の取り組みを丁寧に解説し、さらに採用力を高めるための差別化戦略について具体例とともに紹介します。
人手不足の問題を解決する鍵となるのは、単に「人を増やせばいい」という短期的なアプローチだけではありません。
業務そのものを精査し、効率を高めることで、結果的に企業全体の競争力を底上げし、人材を惹きつける魅力的な組織に変化していくプロセスが重要になります。
人手不足の本質を理解する
まず押さえておきたいのは、「人手不足」には大きく分けて二つのパターンがあるということです。
- 質的な人手不足: 「使える人材がいない」と感じる状況
- 量的な人手不足: 文字通り「人数が足りない」という状況
多くの企業では、「人手不足=量が足りない」と考えがちですが、実は「必要なスキルを持った人が社内にいない」という質的な人手不足のほうが深刻であるケースが少なくありません。
たとえば、新しいITツールを活用できる人材がいない、マーケティング知識を備えた社員が不足しているなどが典型です。
しかし、採用そのものを進める前に考えるべきは「現在の業務に無駄が多く、リソース不足を招いていないか」という点です。
いくら優秀な人材を採用しても、組織全体の業務プロセスが非効率であれば、本来の能力を十分に発揮できず、結局は“人手不足感”が解消しないままになってしまいます。
まず取り組むべき業務の見直し
人手不足を感じたときに、真っ先に「人を増やす」ことばかりに注力するのは危険です。
まずは「今ある業務プロセスにムダがないか」を徹底的に洗い出し、効果的にリソースを活用する道を探ってみましょう。
業績に関係ない業務を特定する
業務の中には、会社の業績向上に直接寄与せず、しかも多くの時間と労力が取られているものが意外に多く含まれています。
たとえば、オフィスのトイレ清掃を社員が毎日行っているケースが典型例です。
もちろん、清掃は必要ですが、以下のような疑問を持ってみてください。
- 「そもそも毎日、社員の手で清掃する必要があるのか?」
- 「月に1回程度を業者に任せ、普段は利用者のモラルで清潔を保つことにすれば、人的コストを大幅に削減できないか?」
このように、「業績に直結する業務」「業績にあまり関係ない業務」の二つを仕分けするだけでも、不要なタスクが浮き彫りになります。
どこにどれだけの時間がかかっているのかを可視化し、業績に影響しない部分を合理化することで、人手不足感がかなり和らぐことは少なくありません。
非効率な業務プロセスの改善
業務を整理し、「どうしても必要な業務」だけを残したとしても、そのプロセス自体が非効率であれば、結果的には大きな時間や労力を費やすことになります。
多くの社員が「これは面倒だ」と口をそろえていながら、慣習的に続けている業務はないでしょうか。
デジタルツールの活用
非効率な業務を改善するには、現代のデジタルツールが大いに役立ちます。
たとえば、下記のようなポイントは見逃しがちですが、改善すればすぐに成果が出やすい部分です。
まず、以下の箇条書きの前に、どのような業務でデジタル化が活きるかを考えてみましょう。
- AIを活用すれば一発で解決できるタスク
画像認識や自動翻訳、テキスト生成など、AI技術は急速に進化しています。
これまで人力で何時間もかかっていた作業が、AI導入によって一瞬で処理できることは珍しくありません。 - Excelの関数を使えば自動化できる反復作業
集計や検索、データの重複除去などは、Excelの関数で自動化可能なケースが多いものです。
プログラミングほど高度なスキルを必要とせず、社内研修や勉強会で十分にカバーできる範囲です。 - 共有ドキュメントに切り替えるだけで効率化できる情報共有
個々がローカルにファイルを保持し、メールでやりとりしていると、最新情報を反映したドキュメントを誰が持っているのか混乱しがちです。
Googleスプレッドシートのようにクラウド上で同時編集ができるツールを採用すれば、リアルタイムで最新情報を共有でき、重複作業やミスも大幅に減らせます。
実際に、ある企業では各担当者がExcelファイルを持ち回りで更新し、毎朝社員全員にメールで共有していたため、最新情報がどれなのか分からなくなる事態にしばしば陥っていました。
しかし、Googleスプレッドシートを導入したところ、全員が常に最新データを閲覧・編集できるようになり、業務効率が飛躍的にアップしたのです。
業務改善の視点を常に持つ
長年同じやり方を続けている業務ほど、当事者には非効率が当たり前になりがちです。
「毎回同じことをしていてうんざりする」「どうしても手間に感じる」という作業があれば、必ず解決策は存在すると考えましょう。
そこで外部のコンサルタントや他部門の社員など、異なる視点を持つ人の意見を聞くのも有効です。
そうした小さな改善が積み重なり、やがて大きな時間短縮やコスト削減につながります。
若手社員の視点を活かす
最近の若手社員は、デジタル技術に比較的慣れ親しんでいるだけでなく、「これは非効率ではないか」と率直に意見を述べる傾向があります。
こうした若手の声を積極的に取り入れ、社内ルールや業務フローを見直すことは、思わぬ成果につながるものです。
逆に、明らかに無駄な業務プロセスが放置されている組織では、「自分が成長できない」と感じた若手が離職を考えることもありえます。
若手社員の視点を活かすためには、経営者や上司が「新しい提案を歓迎する」という姿勢を示すことが重要です。
業務効率化がもたらす好循環
業務効率化を行うと、組織にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
大きな効果としては、以下の好循環が生まれることが挙げられます。
- 業務効率の向上
不要な業務や重複タスクが削減され、残った作業もデジタルツールの活用によって大幅にスピードアップします。 - 一人あたりの生産性の向上
業務がスリム化されることで、社員一人ひとりが高付加価値の仕事に注力できる時間が増えます。 - 会社全体の利益率の向上
同じ人数・同じコストでより多くの成果を生み出せるようになるため、自然と利益率が上向きになります。 - 給与水準の向上が可能に
会社全体が潤えば、社員に還元できるリソースも増え、報酬や福利厚生の充実化を図ることができます。 - 採用力の強化
給与だけでなく、職場環境や企業の成長性も求職者には魅力となります。
効率化された企業は「長時間労働が少ない」「成長できる環境がある」という好印象を与えやすく、優秀な人材を引きつけやすいのです。
この一連の流れによって、業務効率化が人手不足を解消するだけでなく、企業全体の魅力を高める基盤になると考えられます。
採用における差別化戦略
次に考えるべきは「採用力をどう高めるか」です。
人手不足が続く市場環境にあって、求職者がなぜあなたの会社を選ぶのか、その理由を明確に打ち出す必要があります。
給与以外の差別化要素
給与面で他社と差をつけるのは、一見すると効果的に思えます。
しかし、競合企業が同じように給与を上げてくれば、あっという間に差はなくなるでしょう。
そこで重視されるのが、「企業文化」「成長機会」「柔軟な働き方」など、給与以外の部分です。
業務効率化によって生まれた時間的・資金的余力を、社員教育やキャリアパスの整備、福利厚生の充実などに投資すれば、「自分が成長できる環境がある」「ワークライフバランスを大切にできる」などの強い訴求点ができます。
多様化する働き方を求める人材にとって、こうした差別化要素は企業選択の大きな決め手になります。
まとめ:人手不足解消への本質的アプローチ
企業が人手不足に陥る理由は様々ですが、しっかりと対策を打つ企業は、次のステップを大切にします。
- 業務の無駄を徹底的に排除する
真っ先に「人を増やす」ことに走る前に、社内のあらゆる業務を棚卸しし、リソースを削りすぎることなく最適化する。 - 残った業務のプロセスを効率化する
デジタルツールや外部視点を取り入れ、非効率なフローを大幅に見直す。 - 効率化で生まれた余力で企業の魅力を高める
給与だけではなく、企業文化や成長環境、働きやすさなどに投資して、総合的な魅力を打ち出す。 - 差別化された採用戦略を展開する
「なぜ求職者が自社を選ぶのか」を明確に打ち出し、他社にはない独自の魅力をアピールする。
こうした一連のプロセスには時間や労力がかかるかもしれません。
しかし、それを疎かにしてしまうと、仮に優秀な人材を採用できたとしても、非効率な業務に埋もれて本来の力を発揮しきれなかったり、離職率が高まったりするリスクがあります。
一方で、コツコツと企業体質を改善していけば、長期的には「人手不足とは無縁の、魅力ある会社」として評価されるでしょう。
人手不足は、決して避けられない運命ではありません。むしろ、業務効率化や組織の魅力向上のきっかけと考えることができます。
今こそ自社の業務を振り返り、何が本質的に必要な作業なのかを見極めるところから始めてみませんか。
そこから得られる改善の積み重ねこそが、「人手不足」から脱却するための最も確かな道筋となるのです。