節税対策の王道!家族や別会社への所得分散について徹底解説

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
中小企業を経営されている皆さんにとって、事業を成長させることと同じくらい重要なのが「いかに税負担を適切に抑えるか」という節税対策です。
ここでご紹介する方法は、あくまで法律の範囲内で行う正当な節税策であり、経営者として知っておきたい基礎知識と言えます。
税金の仕組みを理解し、有効に活用することで、家族全体の手取り額を増やすことができます。
本記事では「家族への所得分散」を中心に、その具体的な事例や注意点を詳しく見ていきましょう。
はじめに:節税で手取りを増やす基本的な考え方
家族への所得分散は、中小企業経営者が最初に検討すべき重要な節税策のひとつです。
なぜなら、日本の所得税・住民税は累進課税制度を採用しており、収入が高くなるほど高い税率が適用される仕組みになっているからです。
たとえば、一人に大きな役員報酬を集中させるのと、家族それぞれに適切に分散させるのとでは、最終的な手取り額に大きな差が出てきます。
累進課税は「収入が上がるほど税率も上がる」という仕組みです。
そのため、収入を複数人でシェアすることで、一人当たりの課税所得を抑えられ、家族全体の手取り総額を増やす効果が期待できます。
もちろん、ただ闇雲に分散させれば良いわけではなく、税務調査で否認されないように実態を伴った方法で行う必要があります。
役員報酬による所得分散の効果
役員報酬を活用した所得分散は、多くの中小企業にとって比較的取り組みやすい方法です。
ここでは、企業経営が順調で会社に十分な利益が残るケースを想定して考えてみましょう。
たとえば、役員報酬として3,000万円を支給しても会社に利益が確保できる場合、社長が一人で3,000万円を受け取るケースと、家族に分散して支給するケースでどのような差が出るのかを比べます。
以下では、社長に3,000万円を集中させた場合と、家族数名に分散させた場合の手取り額を比較した例を挙げます。
まず、社長が単独で3,000万円を受け取った場合、手取り額は約1,800万円になると仮定します。
次に、分散したケースについて、以下のように役員報酬を振り分ける例を見てみましょう。
- 社長:役員報酬1,500万円(手取り約1,000万円)
- 配偶者:役員報酬500万円(手取り約400万円)
- 子供A:役員報酬500万円(手取り約400万円)
- 子供B:役員報酬500万円(手取り約400万円)
このように分散した結果、家族全体の手取り額は合計で約2,200万円となり、一人にまとめた場合の約1,800万円より400万円ほど多くなります。
役員報酬の総額が同じ3,000万円でも、どのように割り振るかで手取りに大きな差が生じるわけです。
MS法人による所得分散の実践
家族を直接雇用して役員報酬を支給するのが難しい業種の場合、別のアプローチとして「MS法人」(Medical Service法人)を活用する方法があります。
特に医師の方など、医療関連の事業ではしばしば用いられる手法ですが、MS法人を設立し、配偶者や子供などをその法人の株主・役員とします。
そして、医療機関と取引関係を持たせることで、収益をMS法人に発生させ、そこから家族に報酬を支給する仕組みを作ります。
具体的には、年間1億円の医療器具や消耗品を仕入れる医療機関を例に考えます。以下のような流れを作るとしましょう。
- MS法人が医療器具販売業者から1億円で仕入れる
- 医療機関はMS法人から1.1億円で購入する
このとき、差額である1,000万円(1.1億円−1億円)の粗利がMS法人に残ります。
その粗利を原資として、MS法人の役員となっている家族(配偶者や子供)へ役員報酬を支給すれば、医師本人の所得に集中していた税負担を分散でき、家族全体の手取り額が増えるのです。
もちろん、医師本人から見ると、物品購入費用が1億円から1.1億円へと上がるため、コスト増になるという見方もできます。
しかし、個人の税率が高い状態で大きな所得を抱えるよりは、家族に役員報酬を適切に配分して負担を分散させた方が、世帯全体で最終的に手取り額が増えるという考え方です。
不動産管理会社による所得分散と節税
同様の考え方は、不動産収入を得ている場合にも適用できます。
たとえば、大きな土地や建物を個人所有している地主の方がいると想定し、次のような収支構造を例に見てみましょう。
- 不動産収入:1億円
- 固定資産税などのコスト:3,000万円
- 不動産所得:7,000万円(手取り額:約3,700〜4,000万円)
このケースでは、すべてを祖父や親が個人で受け取っていると、累進課税により高い税率が適用されます。
そこで、子供や孫が役員を務める不動産管理会社を設立し、入居者の募集や退去手配、物件の修繕・メンテナンスなどの業務をその会社が担うようにします。
さらに、不動産収入の一部を「管理料」として支払えば、個人側の課税所得を抑えながら、会社側に所得を分散させることが可能です。
たとえば、不動産収入1億円のうち20%(2,000万円)を不動産管理料と設定した場合、次のような効果が期待できます。
- 親族全体での手取り額が増える
- 祖父や親が個人で保有する収入が減ることで、将来的な相続税対策にもなる
この仕組みも、管理会社に役員報酬を支給するための利益が生まれるという点で、MS法人を使った方法と考え方は類似しています。
節税と租税回避行為の境界線
ここで注意が必要なのは、「過度な節税」は税務署によって否認されるリスクがあるという点です。
日本の税制では、あまりにも実態を伴わない所得移転や不自然な金額設定が見つかった場合、「租税回避行為」とみなされ、追徴課税を受ける可能性があります。
一般的に、どの程度が許容範囲かはケースバイケースではありますが、よく言われる目安としては以下のとおりです。
- MS法人:医療機関の売上の5〜10%程度
- 不動産管理会社:不動産収入の10〜20%程度
たとえば不動産管理料を50%や70%といった極端に高い水準に設定するようなケースは、業務実態と釣り合っていないと判断され、税務調査で否認されやすくなります。
節税目的であっても、常識的な範囲で行うことが重要です。
業務実態の重要性
家族に所得を分散する際、金額の設定だけでなく「業務実態」があるかどうかも非常に重要なポイントです。
ただ役員として名前を連ねるだけで、何の業務も担っていない親族に高額の役員報酬を与えると、租税回避行為とみなされるリスクが高まります。
業務実態を明確に示すために、例えば以下のような役割がきちんと果たされているかを確認する必要があります。
- MS法人の場合:医療器具・消耗品の手配、仕入れ交渉、納入管理など
- 不動産管理会社の場合:物件の入居者募集・退去手続き、賃貸物件のメンテナンス、管理会社としての経理業務など
「役員は責任を負う立場だから業務をしなくてもいい」という理屈は税務調査では通用しません。
実際に、業務に従事していないにもかかわらず報酬だけ支払われていたケースが否認された例もあり、きちんと実態を作ることがポイントです。
子供の役員就任に関する年齢の問題
家族に所得分散をするうえで、配偶者だけでなく子供を役員にするケースもあります。
そこでよくある疑問が「子供は何歳から役員にできるのか」という点です。
この点は法律上明確な基準が定められているわけではありませんが、実務的には、以下のような観点を考慮することが多いです。
- 意思能力の基準:一般的に10歳前後とされることが多い
- 登記上の制限:役員登記には印鑑証明書が必要であり、実質的に15歳以上が必要
- 税務上の認定:2022年4月の民法改正によって成年年齢は18歳に引き下げられたが、経営能力を考慮すると18歳以上が望ましい
実際の税務裁判では、高校生の親族を取締役として報酬を支払っていたケースが否認された事例があります。
年齢だけで線引きするわけではありませんが、社会通念上、「その年齢で役員として必要な業務を実際に行えるのか」という点は厳しくチェックされます。
要するに年齢の問題とともに、「本当にその子供が業務に従事しているのか」という業務実態が最重要視されるのです。
まとめ:所得分散の実践ポイント
家族への所得分散は、中小企業経営者にとって効果的な節税手法の一つですが、やり方を誤ると税務調査で否認される可能性があります。
最後に、実践の際に押さえておきたいポイントを確認しておきましょう。
- 適切な「抜き分」の設定
MS法人の場合は売上の5〜10%、不動産管理会社の場合は不動産収入の10〜20%程度が目安とされ、あまりにも大きな割合を設定すると租税回避行為とみなされるリスクが高まります。 - 役員となる親族の適切な年齢
印鑑証明書の取得や意思能力の面などから、事実上は15歳以上、さらに実務や税務上の評価を考慮すれば18歳以上が望ましいとされています。 - 役員報酬に見合う業務実態の確保
名義だけの役員就任は税務当局に否認される可能性があります。実際に業務を行い、その対価として報酬を得ていることをしっかり証明できるようにしましょう。
これらのポイントを踏まえつつ、家族全体の手取り額を増やし、同時に将来の相続税対策にもつなげられるように計画的に制度設計を行うことが大切です。
節税は違法ではなく、経営における重要な戦略のひとつであり、効果的に用いれば会社や家族の資産を守る大きな力になります。
ただし、具体的にどの程度まで許容されるかは、個々の事情や事業形態によって変わります。
実際に導入を検討する際は、税理士や公認会計士などの専門家と相談しながら、制度に適合した形で進めることを強くお勧めします。
家族への所得分散を適切に活用し、税務リスクを抑えながら、ぜひ企業やご家族の将来をより豊かにする一助にしてみてください。