税務調査っていつ終わるの?正式な終了を定める法的根拠を解説

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
税務調査は、企業の経営者にとって避けては通れないプロセスの一つです。
多くの経営者は、税務署からの通知に緊張したり、実地調査の日程や対応方法に不安を感じたりすることでしょう。
そのなかでも、「税務調査がいつ正式に終了するのか」は特に気になるポイントではないでしょうか。
実際、調査に対して誠実に対応していたとしても、「長期間連絡がなかったら終わったのではないか」と思い込んでしまうケースが少なくありません。
本記事では、税務調査の終了手続きについて、国税通則法の定める法的根拠と実務的な視点からわかりやすく解説します。
誤解が生じやすい「調査中断」と「調査終了」の違いにも触れながら、長期間にわたる調査の際に気をつけるべきことや、調査終了後の流れについても紹介します。
税務調査終了にまつわるよくある誤解
税務調査に関して、次のような誤解や疑問を耳にすることがあります。
- 「税務調査は何日間と決められており、期間が過ぎれば自動的に終わる」
- 「連絡が数ヶ月途絶えたら、調査は自然消滅する」
これらの見解は、いずれも法的には誤りです。
なぜなら、税務調査を公式に終了させるための決め手となる「行為」は法律で定められていますが、「期間」が明確に規定されているわけではないからです。
言い換えれば、法律上の終了手続きが行われない限り、たとえ何ヶ月連絡が途絶えても「調査が終わった」とみなすことはできません。
こうした誤解は、経営者の方々が「一定期間が経過すれば自動的に終了する」というイメージを持ってしまうことに起因すると考えられます。
しかし、この誤解を払拭するためには、まず税務調査の終了を定める法律の内容を正しく理解する必要があります。
税務調査の終了を定める法的根拠
税務調査の手続きは、国税通則法のなかで定められています。
そのうち、調査終了を規定しているのが国税通則法第74条の11です。
この条文には、税務調査が正式に終了する場合として、以下の3つの行為が挙げられています。
- 申告是認
税務署が納税者の申告内容に誤りがないと判断し、更正決定等を行う必要がないと認めた場合、書面によって「申告是認通知」を送付します。
これによって、税務調査は正式に終了します。 - 更正
納税者の申告内容に誤りや不備があり、税務署が法的な手続きをもとに申告内容を修正する(更正を行う)場合です。
更正通知を受け取ることで調査が終わったとみなされます。 - 修正申告の勧奨
調査官が納税者に対して、誤りを修正するよう「修正申告の勧奨」を行い、納税者自らが修正申告を提出した場合に調査は終了と扱われます。
このうちいずれかの「行為」がなされない限り、税務署としては「調査が継続中」という扱いになるのです。
調査期間が長引いたり、実地調査後にしばらく音沙汰がなかったりしても、上記の公式な行為のいずれも行われていないのであれば、法的には調査終了とは見なされない点に注意が必要です。
調査が中断していても終了ではない
税務調査は、実地調査が行われたあとでも、追加資料の確認や担当者の休暇・人事異動など、さまざまな事情で一時的に中断される場合があります。
しかし、それはあくまでも「中断」であって「終了」ではありません。
国税庁の内部規定「税務調査手続等に関するFAQ(職員用)」にも、この点に関するQ&Aが存在します。
問4-54 調査を中断した場合、改めて実地の調査を行うに当たり、再調査の適否判定は必要か。
(答)調査を中断した後において、調査を再開することは、調査を終了しておらず、再調査には該当しないことから、再調査の要否判定は必要ありません。
つまり、税務署側で「いったん調査をストップしよう」と判断しても、これは単に「調査を一時的に止めただけ」という位置づけです。
数ヶ月から半年以上連絡がなかったとしても、公式に終了手続きが行われていない限り、「まだ調査は終わっていない」ものとして扱われることになります。
受忍義務の期間はいつまで続くのか
税務調査には、納税者の「受忍義務(調査に協力する義務)」という考え方があります。
国税通則法第74条の11が示す3つの公式な終了手続きのいずれかが完了しない限り、この受忍義務は継続するとされています。
実地調査の実施日数や、事前通知に記載された期間とは関係なく、調査官から正式な通知が届くまで受忍義務は続いている点を忘れてはいけません。
「3ヶ月連絡がなかったからもう終わったはずだ」と勝手に判断し、追加の資料提出を拒否すると、後々になって法的なリスクを負う可能性があります。
税務署は中断後に改めて調査を再開し、追加で資料を求めることができるからです。
調査が長期化していたとしても、終了手続きが完了していなければ引き続き受忍義務を履行する必要があると理解しておきましょう。
税務調査が長期化した場合の対応策
調査が長期化するほど、企業の担当者は日々の業務に加えて税務署への対応に気を配らなければならず、心理的な負担を感じやすくなります。
そこで、長期化に備え、以下のような対応策を取るとスムーズです。
- 終了状況の確認
調査担当官に対して、現状の調査ステータスと今後の見通しについて定期的に確認を行います。
特に「調査はこのまま終わったと思っていいのか」といった疑問点がある場合、遠慮なく問い合わせると、余計な思い込みや誤解を避けられます。 - 記録の保持
提出書類のコピーや税務署とのやり取りの内容を記録に残しておくことは、後で内容を振り返るうえで非常に重要です。
誰がいつどのような依頼をしたか、こちらから何を提出したかなど、細かな点も含めて書面やデータで管理しておくと、紛争回避にも役立ちます。 - 専門家への相談
長期化すると、税法知識だけでなく調整力や交渉力が求められる場面も出てきます。
税理士や弁護士などの専門家を早めに交えておくことで、必要な書類の整理や交渉方針を的確に決められるでしょう。
特に経営者自らが税務署と直接やり取りすることに不慣れな場合は、専門家のサポートが大きな力となります。
税務調査終了後の手続きと注意点
税務調査が正式に終了したあとにも、いくつか大切な手続きや留意点があります。
ここでは、代表的なケースに分けて注意すべき事項を整理してみましょう。
申告是認の場合
- 申告是認の通知を受け取ったら、今後の申告業務に生かせるよう、今回の調査で着目されたポイントや提供した書類を振り返ります。
- 税務署がどのような観点で書類を確認していたのかを把握しておくと、次回以降の調査に備えやすくなるだけでなく、日常の会計処理の精度向上にも役立ちます。
更正または修正申告の場合
- 更正通知の内容や修正申告書の内容をしっかりと理解し、税額の変更やペナルティの有無などを確認します。
- 不服申立てと更正の請求の違いを把握することが重要です。修正申告を提出した場合、その内容に対しては不服申立てを行えませんが、更正の請求は可能です。この点は調査終了時に税務署が書面で交付してくれるため、十分に内容を読み込むようにしましょう。
まとめ – 正確な知識が税務調査の不安を軽減する
税務調査は企業経営者にとって見過ごせないイベントであり、場合によっては長期間にわたることもあります。
しかし、税務調査を公式に終わらせるためには、国税通則法第74条の11で定められた「申告是認」「更正」「修正申告の勧奨」のいずれかが行われる必要があります。
単に時間が経過したり、税務署からの連絡が途絶えたりしただけでは、調査が終了したとは認められません。
もし調査が長期化しても、「ただの中断であり、終わっていない可能性が高い」と理解しておくことが大切です。
調査が続いている限り受忍義務も継続するため、追加で提出を求められれば協力を拒めません。
こうしたルールを正しく理解し、必要に応じて専門家に相談するなど適切に対応することで、調査全体がスムーズに進むはずです。