銀行格付けの真実:知らないと損する企業評価の基本

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
実は、日本の中小企業の99.3%が銀行から融資を受けているといわれていますが、そのすべての会社には例外なく格付けがつけられています。
銀行格付けは融資額の多寡や金利、保証人の要否など、経営に直結する要素を左右するため、その仕組みを知っておくと大きなメリットを得られます。
「でも、銀行からはそんな話を一度も聞いたことがない…」と思われる方も少なくないでしょう。実際、銀行員の方が格付けについて細かく説明してくれることはあまり多くありません。
しかし、その仕組みを知っているかどうかで、融資条件や経営の安定感は大きく変わる可能性があります。
そこで本記事では、銀行格付けの基本的な考え方から格付けの5段階評価、そして自社の格付けを経営に活かすためのポイントまで、順を追って解説していきます。
銀行格付けとは何か
まずは「銀行格付けって一体何?」という点から見ていきましょう。
銀行格付けとは、銀行が取引先企業の「返済能力」や「経営状態」を数値・ランクとして評価する仕組みのことを指します。
まるで学校の通信簿のように、複数の評価項目を合計し、最終的に5段階の評価(銀行によってはもっと細分化される場合もある)としてまとめられます。
銀行はこの評価をもとに、融資金額・金利・担保や保証人の必要性・審査にかかる時間などを決めています。
したがって、格付けが良ければ金利が優遇されて資金調達がスムーズになる反面、格付けが低い場合は融資が通りにくくなったり、条件が厳しくなったりします。
言い換えれば、銀行格付けは企業が受ける「金融サービス」の質を大きく左右する要素なのです。
銀行格付けが行われる理由
銀行が企業に格付けを行う理由は非常にシンプルです。
「融資したお金がちゃんと返ってくるかどうか」を判断するためです。
もし皆さんが個人的にお金を貸すとき、「この人は本当に返せるだろうか」「収入は安定しているのかな」「他に多額の借金を抱えていないだろうか」といった点を気にすると思います。
銀行も同様に、お金を貸し倒れさせないために企業の信用度を測りたいのです。ただし、銀行では個人の感覚に頼らず、内部基準を設けて機械的・客観的に評価を行います。
その客観的な評価方法こそが「格付け」と呼ばれるものです。
格付けの評価ポイント
銀行格付けはあくまでも“トータル”で判断されますが、大きく分けて下記の3つの要素が影響するとされています。
- 決算書の数字(100点満点の70点分)
企業の売上高・利益・自己資本比率・キャッシュフローなど、いわゆる「財務諸表」の数値が中心です。返済能力を直接的に示す指標を総合的にスコア化します。 - 経営者の能力や会社の強み(20点分)
経営者個人の実行力やリーダーシップ、従業員の育成体制、または商品の独自性や市場での優位性など、定性的な面も評価対象です。 - 経営者個人の資産力(10点分)
経営者自身がどれくらいの資産や預貯金を持っているか、または不動産など担保となるものを保有しているかといった点も見られます。
このように「数字」「経営者の力」「経営者個人の資産」の3本柱を中心として評価がなされ、総合点が高ければ格付けも良くなるという仕組みです。
いわば学校の通信簿の総合評価のようなイメージで捉えてください。
銀行格付けの5段階評価
ここからは、実際に銀行がどのような段階で企業をランク付けしているのかを見ていきます。
銀行は、取引先企業を大きく下記の5つに分類していることが多いです。
1. 正常先(全体の約75%)
「健康診断」に例えるならば「健康体」に該当します。
この“正常先”の中でも、銀行によってさらに1~6段階(あるいは10段階)ほど細分化されるのが一般的です。
ここでは上位・中位・下位の3つに分けて説明します。
- 上位(1~2ランク):超優良企業
ここに属する企業は、無担保でも融資を受けられたり、金利が最優遇となるケースが多いです。新規融資の審査も比較的スムーズに進むでしょう。 - 中位(3~4ランク):優良企業
担保や保証があれば安定的に融資を受けられる、比較的良い条件が提示されやすい層です。新規融資の際も前向きに検討してもらえる傾向があります。 - 下位(5~6ランク):普通の企業
ここに該当しても即「要注意先」というわけではありませんが、状況によっては担保や保証協会の保証が求められることもあります。金利は標準的で、新規融資はやや慎重に審査される場合が多いです。
2. 要注意先(全体の約20%)
次に挙げるのが「要注意先」で、健康診断でいえば「生活習慣病予備群」のようなイメージです。
売上や利益の減少が続いたり、業界環境の悪化などが重なり、資金繰りに不安がある段階を指します。
- 具体的な特徴
- 2期連続の減収減益
- 借入金が増加傾向
- 資金繰りが時々厳しくなる
- 業界環境の悪化が著しい
- 影響
- 担保や保証人が必須になるケースが多い
- 金利が1%以上上乗せされることもある
- 新規融資の審査に時間がかかる
- 融資限度額が減額される
早めに対策を講じることが肝心で、放置していると次に紹介する「要管理先」へ移行してしまうリスクがあります。
3. 要管理先
こちらは「すでに治療が必要」な状態とも表現できる段階です。
3期以上連続で赤字が続く、元金の返済を一時停止せざるを得ないなど、資金繰りが切迫している状況が見られます。
- 主な特徴
- 返済条件の変更(リスケジュール)を行っている
- 元金返済の一時停止を相談している
- 資金繰りが恒常的に厳しい
- 3期以上連続の赤字
- 影響
- 新規融資はほぼ不可能
- 既存融資の返済条件の見直しが中心
- 経営改善計画の提出が必須
- 定期的な進捗報告が求められる
4. 破綻懸念先
「重症」に当たる状態です。
実質債務超過や返済の大幅遅延、事業収益の大幅悪化などで、もはや継続的な経営改善が難しいケースが含まれます。
5. 実質破綻・破綻先
最後が「実質破綻」または「破綻先」。いわば「集中治療室」に入るレベルの深刻度となります。
深刻な債務超過、返済が完全にストップしている、事業継続が極めて困難といったケースが該当し、法的整理の検討が必要になる段階です。
実務上とくに注目すべきポイント
実際には、中小企業の約95%が「正常先」か「要注意先」のどちらかに分類されると言われています。「要管理先」以下の企業は5%程度しかないのです。
これは、ほとんどの中小企業が「健康体か、生活習慣病予備群か」のいずれかに該当すると考えるとイメージしやすいでしょう。
そこで経営者の皆様にとって重要なのは、以下の3点です。
- 自社が「正常先」か「要注意先」か
企業として健康体の部類に入るのか、それとも予備群とみなされているのかで、金融機関の対応は大きく変わります。まずは自社がどこに位置しているかをできるだけ正確に把握しましょう。 - 「正常先」の中での自社の位置
正常先にも上位・中位・下位があり、担保や保証の要否、金利条件などに差が出てきます。融資交渉や経営戦略を立てる際には、自社が「超優良企業」に近いのか、「普通の企業」に該当するのかを把握することが大切です。 - 「要注意先」である場合の改善策
「要注意先」に分類されていても、改善は可能です。財務指標を好転させるための具体策や、経営者の能力・会社の強みを強化するためのプランを立て、銀行との折衝に活かしていきましょう。
自社の格付けを知るには
「自分の会社はどのランクに分類されるのか?」と気になった方も多いはずです。
しかし、銀行に直接格付けを尋ねても、答えてもらえないことが大半です。これは、銀行内部の審査基準を外部に明かせないという事情があるからです。
とはいえ、日頃の取引や銀行担当者の対応から“おおよその予測”を立てることは可能です。下記のようなサインが一つの判断材料になります。
- 担保なしで融資を受けられる → 正常先の上位
銀行側が担保を要求しないということは、それだけ企業の信用度を高く見ている証拠ともいえます。 - 保証協会の保証が必要 → 正常先の下位か要注意先
銀行が「自己のリスクを減らしたい」と考えている状況の可能性が高いです。 - 金利が他社より明らかに高い → 要注意先の可能性
信用リスクが高いと判断されている証拠です。 - 新規融資の相談を断られる → 要管理先以下の可能性
銀行が「新たな貸し付けは難しい」と認識している状態のため、改善プランなしでは交渉が難しいでしょう。
とくに「担保」と「保証協会」については、銀行の格付けランクを推測するうえで大きな手がかりとなります。
通常、「正常先の上位」であれば無担保融資が可能になる場合が多いからです。
格付けを経営に活かすメリット
「うちは今のところ借入れに困っていないから、格付けなんて気にしなくても…」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、格付けを把握することは融資以外にもさまざまなメリットをもたらします。
ここでは、格付けを押さえるメリットを、以下のように3つの視点でお伝えします。
1. 融資交渉を有利に進める
- 金利引き下げ交渉
自社の財務指標が良好なことを証明し、格付けが高いことが確認できれば、交渉の具体的な根拠になります。 - 担保・保証人の解除提案
格付けの改善に伴い、担保や保証人を外す交渉にも説得力が増します。
2. 自社の課題が明確化する
- 業界平均との比較
格付けが低下しているときは、業界の他社と比べて財務指標や収益構造に問題があるかもしれません。格付けを意識することで自社の弱点を把握できます。 - 改善すべき財務指標の特定
経営者の資産力を強化するのか、売上アップを図るのか、あるいは利益率の改善が必要かなど、具体的な優先順位を見極められます。
3. 経営改善・事業計画に活かす
- 具体的な数値目標を設定できる
「自己資本比率を何%まで高める」「借入金をいつまでにいくら減らす」といった目標を明確化できます。 - 銀行の評価ポイントを踏まえた事業計画作り
金融機関が重視するポイントを踏まえて計画を策定すると、より実現可能性の高い経営戦略を組み立てられるでしょう。
まとめ:銀行格付けは経営の羅針盤
最後に、本記事のポイントを整理します。
- 銀行取引のある企業には必ず格付けがつけられている
融資を利用している中小企業はほぼすべて、銀行内部で何らかのランクに振り分けられている。 - 格付けが融資条件を大きく左右する
金利の高低、担保・保証人の要否、融資限度額、審査にかかる時間などが格付け次第で変化する。 - 5段階評価のうち、約95%の企業が「正常先」か「要注意先」
この2つのランクが実務上もっとも重要。自社がどちらに該当するか、もしくは正常先の中でもどの位置にあるかを把握することが大切。 - 格付けは経営改善の指針としても活用できる
自社の強みや弱みが明確になり、融資交渉や経営目標の設定にも役立つ。
もし「今まで格付けを意識していなかった」という方は、まずは簡単にでも自社の位置を把握してみてください。
担保や金利条件、保証協会の利用状況などをチェックすれば、おおよその目安がつくでしょう。
そして、もし要注意先に近い水準であると感じたら、早めの改善策を練ることが肝心です。
自社がどの位置にあるのかを知り、その情報を経営戦略に反映させることで、より良い条件での資金調達や健全な経営体制の構築が期待できます。