「社長の一人飲み」は交際費?経営者が知っておくべき対応策

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。

中小企業の経営者の皆様、日々の業務や経理処理において「節税」は大きなテーマの一つではないでしょうか。

しかし、正しく税務処理を行わずに安易に「会社の経費」として支出を計上してしまうと、思わぬリスクを招く可能性があります。

とりわけ注意が必要なのが、社長や役員などの個人的な飲食費を「交際費」として処理するケースです。

実際にあった裁判例でも、社長の「一人飲み」にかかった飲食費が会社の交際費として計上され、結果として重加算税という厳しいペナルティが課された事例があります。

ここでは、その裁判事例を踏まえながら「社長の一人飲み交際費」にまつわるリスクを解説し、経営者がとるべき具体的な対応策についてお伝えします。

いくら節税を図ろうとしても、意図せず脱税行為とみなされてしまえば、企業経営に大きなダメージが生じかねません。

適切なリスク管理の観点から、ぜひ最後までお読みいただければと思います。

問題となった事案の概要

今回取り上げるのは、東京地裁(令和2年3月26日判決)および東京高裁(令和3年1月28日判決)で確定した事例です。

この事例では、3社の経営者が個人的に通っていた高級クラブの飲食費を、会社の交際費として計上していました。

ここで注目すべきは、その飲食費が「一人飲み」であったことや、多額かつ頻繁であったことが税務調査の結果として明らかになった点です。

問題となった事案をもう少し具体的に見ていくと、次のような事情が存在していました。

  • 経営者は「お気に入りのホステス」が移籍するたびに、その移籍先の高級クラブに通っていた
  • 1回あたり約20万円の支出で、月平均5回の利用
  • 調査対象期間内の支出総額は6,600万円超
  • 反面調査の結果、「一人飲み」であることが明らかになった
  • 経営者自身も税務調査の際、「同行者がいた」「業務関連性があった」といった反論をしていない

以上のように、非常にわかりやすい形で「個人的な飲食」であると判明してしまったため、会社の経費としての正当性を主張することが難しい状況が生じていたのです。

修正申告と重加算税賦課の経緯

税務調査によって「これは交際費とは認められないのではないか」という指摘がなされた後、経営者は「貸付金」として修正申告を行いました。

具体的には、会社が一時的に社長に対してお金を立て替えた形で処理し、未収利息を計上するという対応をとったのです。

通常、個人的な支出を会社が負担していた場合は「役員賞与」として認定される可能性が高いのですが、この事案においては修正申告後も税務署側が「貸付金処理」を否定しなかったという特徴があります。

一見すると、経営者にとっては「役員賞与」とされるよりも貸付金の方がメリットがあるようにも思えますが、最終的には「重加算税」が課されました。

この「重加算税」は、通常の「過少申告加算税」よりもはるかに重いペナルティです。

たとえば、過少申告加算税が原則10~15%であるのに対し、重加算税は35%(場合によっては40%)と負担が大きくなります。

重加算税が課されることで、追徴税額が大幅に上乗せされ、企業の資金繰りにも影響が及びかねません。

重加算税が課された理由

この裁判で特に問題視されたのは、「経営者が個人的支出を交際費として仮装・隠蔽していた」という点、および「貸付金であれば本来発生するはずの利息収入を計上しなかった」という点でした。

東京地裁は次のように判断し、重加算税の賦課を正当としました。

  1. 交際費の仮装
    本来は個人的な支出にもかかわらず、会社の損金として計上していた点が「仮装」に該当すると認定された。
  2. 利息収入の隠蔽
    会社から社長への貸付金という扱いならば、本来発生すべき利息を計上していないため、「隠蔽」にあたると判断された。

裁判所としては、「法人税等の課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠蔽・仮装し、その隠蔽・仮装に基づき納税申告書を提出した」と認定しており、重加算税を課すための要件が満たされると結論づけたわけです。

判決の問題点と専門家の見解

もっとも、この判決については多くの税理士・公認会計士などの専門家から異論が出ています。

なぜなら、重加算税が課される要件としては「隠蔽または仮装」の具体的行為が必要とされるところ、過去の税務実務では「単に誤った経費計上や故意性があった」というだけでは直ちに重加算税が成立しないケースも多かったからです。

判決のロジックを要約すると、「(社長自身が)交際費にならないと認識しながら損金算入した」という故意性が、すなわち「仮装」にあたるというものです。

これは従来の考え方に比べるとハードルが低く、「注意不足」や「故意に近い過失」といった行為でも重加算税に問われうる、という解釈の幅を広げかねません。

実務上の注意点

この判決が一度確定した以上、税務調査の現場で調査官が本件判例を持ち出し、「社長の一人飲み交際費は重加算税対象になり得る」と主張してくる可能性があります。

しかも、本件の事実関係は非常にシンプルで、かつ多額の支出であるため「自社の事情はこの事案とは違う」と反論する材料が少なくなるケースも考えられます。

そのため、経営者は「一人飲み」が常態化している場合には、特に注意が必要です。

税務当局は「個人的に楽しんだ飲食費を会社の経費にしているのではないか」という疑いを持った時点で、徹底的に反面調査や請求書・領収書の確認を行うからです。

経営者がとるべき対応策

ここでは、今回の判例を踏まえて経営者が具体的にどのような対策を講じればよいかを整理します。

やるべきことは単純に「飲食を控える」ことだけではありません。

正当な業務上の支出であれば、堂々と交際費として計上するべきです。

一方で、税務リスクを最小化するためには、次のような点に気をつける必要があります。

会社経費と個人的支出の明確な区分
業務上の接待交際費と個人的な飲食費は、会計処理においてきちんと分けることが基本です。
とりわけ「一人飲み」の場合には、原則として個人負担とするのが安全策といえます。
ただし、業務上やむを得ず一人で接待を行うような特殊なケースがある場合は、その業務関連性を具体的に証拠や書面で残しておくことが不可欠です。
そうすることで「一人であっても業務目的があった」と説得力を持って説明できるようになります。

交際費の記録管理の徹底
交際費という科目は、税務調査でも特に注目を集めやすい項目です。
適切に計上していても、記録が曖昧だと「本当に業務関連があったのか」と疑われるリスクが高まります。
そこで、同席者の氏名や会社名、打ち合わせ内容の概要、業務との関連性などを領収書やレシートにメモしておくことが望ましいでしょう。
こうした情報を整理しておけば、後から振り返った際に支出の正当性を説明しやすくなります。

高額・頻繁な交際費への注意
交際費そのものの金額が高額であったり、利用回数があまりにも多かったりすると、税務当局の目に留まりやすくなるのは事実です。
今回の裁判例でも、1回あたり20万円を超える支出が月に5回という頻度で繰り返され、しかも総額が6,600万円超にのぼっていたため、税務署も見逃せなかったと考えられます。
経営者が贅沢すぎる飲食を会社の経費にする場合は、たとえ業務関連性を主張しても調査官に強い疑いを持たれるリスクがあることを十分に認識しておきましょう。

まとめ:税務リスク管理の視点から

今回の裁判例は、重加算税が課される要件について、実務家の間でも議論を呼ぶ内容となっています。

かつては「仮装・隠蔽」という言葉から、もっと明確な偽装工作などが必要と考えられてきました。

しかし本件判決では、社長自身が「一人飲み」を会社経費にできないと認識しながら損金算入していた行為が「仮装」にあたるとされたのです。

このように解釈の幅が広がったことで、「一部でも故意があった場合には重加算税のリスクがある」と見る向きが増えています。

税務調査で指摘されると、追徴税額や加算税・重加算税、延滞税など、多額の出費を余儀なくされることも少なくありません。

特に中小企業においては資金繰りに大きく影響する場合もあるため、早い段階でリスクを認識し、正しい処理をしておくことが肝心です。

実務上、経営者の個人的支出と会社の経費は明確に区分し、交際費については誰とどのような目的で利用したのかをできる限り具体的に記録しておくと、後々の税務調査で説明がスムーズになります。

税理士としては、こうした裁判例を顧問先の経営者に周知し、「誤った処理がもたらす重加算税リスクは非常に高い」というアラートを常に出すことが重要だと考えています。

企業として節税を追求することは必要ですが、それが行きすぎると脱税とみなされ、結果として重いペナルティを受けかねません。

税務リスクを回避するためには、専門家の意見を交えながらルールに沿った会計処理を行い、必要な証拠や記録をしっかり残すことが不可欠です。

社長の「一人飲み」をどう扱うかは、その会社のガバナンスやコンプライアンス体制の一端を示すものでもあります。

健全な企業経営を維持するためにも、個人的支出と会社の経費を線引きし、正確な申告と丁寧な説明が行える状態を整えておきましょう。

法令や判例の動向を踏まえた税務リスク管理は、単なる経費削減や節税だけでなく、企業の信頼や持続的な成長を支える重要な要素となります。

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