新規集客より簡単?客単価アップで“今すぐ”利益を2倍にする方法
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週火曜日に、経営者なら知っておきたい「売上増加」についての知識を解説しています。
今回は、新規客の獲得に悩む経営者の方々にぜひ知っていただきたい「客単価アップ戦略」についてお伝えします。
「お客様の数が足りないからもっと集客しよう」と考えがちですが、実はそこに大きな落とし穴が潜んでいます。
新規集客の労力や広告費は想像以上に大きく、すぐに売上を伸ばすには決して効率の良い方法とは言えません。
そこで、既存のお客様へのアプローチに目を向けることで、コストを抑えながら売上・利益を大きく伸ばせるのが「客単価アップ戦略」です。
今回は、なぜ客単価アップが最強の利益改善策となるのか?その実行方法はどういうものか?を、事例をもとにわかりやすく解説していきます。
「客単価アップ」が最強の利益改善策である理由
まずは、なぜ客単価アップが経営者にとって優れた戦略と言えるのか、その理由を確認しましょう。
多くの経営者は「売上を増やすには新規客を増やすしかない」と考えがちです。
しかし、新規のお客様を獲得するには広告やキャンペーンなどの費用がかさみ、運営側の負担も大きくなります。
1. 新規客を増やすリスク
新規客を獲得しようとする場合、たとえば以下のようなコストやリスクが考えられます。
- 広告費の増大
新規顧客獲得のためにチラシやネット広告などを強化するには、一定の広告予算が必要です。成果が見込めない場合もあり、費用対効果が不明瞭になりがちです。 - スタッフの負担増加
新規客が大幅に増えると、スタッフを増やしたり教育したりする必要が出てきます。結果的に人件費や時間的コストが増え、サービスの質を維持するのが難しくなる恐れもあります。
こうしたリスクがあるため、「売上を伸ばす=新規客獲得」という発想だけでは、費用対効果や経営の安定性が損なわれる可能性があるのです。
2. 客単価アップの強み
これに対して「客単価アップ」は、すでに購入意欲を持ってご来店いただいているお客様に、より価値のある商品やサービスを提案する取り組みです。
- 追加コストが少ない
新しい広告媒体を追加したり、大々的なキャンペーンを打ったりする必要がありません。既存のお客様の満足度を高めつつ、自然に単価を上げるのでコストが低く済みます。 - 実行までのスピードが速い
既存のお客様への提案ですから、細やかなマーケティングリサーチや大規模な販促をする前に、比較的スムーズに実行できます。
このように、客単価アップは新規客獲得に比べて「手間が少ないのに大きな成果を期待できる」点で非常に魅力的な戦略と言えます。
利益2倍に必要な客単価アップ額を計算してみよう
それでは、実際にどの程度の客単価アップが必要なのか、数字を見て考えてみましょう。
ここでは、「年商3,000万円、月商250万円、平均客単価3,000円の飲食店」を例にします。
具体的な数字を把握することで、狙うべき金額と施策の方向性が明確になります。
1. 利益2倍に必要な売上増加額
まずは、現在の利益率と目標となる追加利益額を押さえましょう。
- 現在の利益率: 5%(年間150万円の利益)
- 目標: 利益をもう150万円増やして2倍にする
- 粗利率: 60%と仮定
上記をもとに必要な売上増加額を計算すると、およそ250万円/年(約21万円/月)となります。
月商が250万円の店舗であれば、月21万円の売上増は、そこまで不可能な数字ではないかもしれません。
ここで大切なのは、「この21万円をどのようにして上乗せするか」を具体的に検討することです。
2. 1人あたりの単価アップ目標
次に、月間来店客数が約834人(250万円の月商 ÷ 客単価3,000円)と想定してみます。
その上で、全員が客単価アップに協力してくれる場合と、そうでない場合の差を考えてみましょう。
- 全員が参加した場合: 1人あたり250円のアップ
- 実現率が50%の場合: 1人あたり500円のアップ
- 実現率が30%の場合: 1人あたり830円のアップ
- 実現率が20%の場合: 1人あたり1,250円のアップ
- 実現率が10%の場合: 1人あたり2,500円のアップ
このように、実際には全員が追加メニューやアップグレードを選ぶとは限らないため、「実現率」に応じて必要な単価アップ額を見積もることが重要です。
なお、実務上10%を下回る参加率の場合は、提案方法が適切でないか、商品の設定が魅力的でない可能性があります。その場合は施策自体を見直す必要があるでしょう。
客単価アップの具体的な実現方法
数字の目標設定が明確になったところで、具体的に客単価を上げるにはどうしたら良いのかをお伝えします。
ここで重要となるのが、「トランザクションバリュー(取引単価)の理解」と「慣性の法則を味方につける」考え方です。
1. トランザクションバリューを理解する
「トランザクションバリュー(取引単価)」とは、一度の取引で得られる売上のことです。
客単価アップというと「値上げ」を想像しがちですが、単純に値段を上げるだけでは価格に敏感なお客様は離れていく恐れがあります。
そこで大切なのは、お客様にとって価値を感じられる商品やメニューを増やすことです。
飲食店で例えると、高級食材を使ったプレミアムメニューを作り、通常メニューとの差別化を図るようなイメージです。
価格差をつけても「それだけの価値がある」と感じてもらえれば、追加の利益を得やすくなります。
2. 慣性の法則を味方につける
物理学の「慣性の法則」に例えられるように、新規のお客様に最初の購入を決断してもらうハードルは高いものです。
しかし、すでに財布を開いているお客様に追加で商品を提案する場合、そのハードルはグッと下がります。
これは、すでに購入を決めているという心理的・行動的な慣性が働き、追加の提案にも前向きになりやすいためです。
この点を活用することで、客単価アップの成功率を高めることができます。
3. 3つの実践的アプローチ
ここでは、具体的にどのように客単価アップを図れるのかを3つの手法に分けて解説します。
いずれのアプローチでも、「お客様にとってのメリット」をしっかり伝えることが重要です。
(1)取引単価を上げる
まずはお客様が購入する商品やサービスそのものの価格帯を上げていく方法です。
ただし闇雲に値上げするのではなく、付加価値の高いプレミアム商品を用意する、アップグレードオプションを設けるなどの工夫が必要です。
- プレミアムメニューの導入
通常より高級な材料やこだわりの仕入れルートを活用することで、商品に“特別感”をもたせます。飲食店なら「国産ブランド牛のステーキコース」や「プレミアム飲み放題」のように、価値と価格を連動させましょう。 - アップグレードオプションの設定
既存の商品の上位グレードを用意し、「少しプラスすればもっと良い体験ができる」状況を作るのも効果的です。たとえば居酒屋なら、スタンダードな飲み放題プランのほかに、特定の地酒やワインを含む上位プランを用意するなどです。
(2)購入個数を増やす
次は「客単価=商品単価×購入個数」の式に注目し、お客様が購入する個数や種類を増やす方法です。
- お得感のあるセット商品の開発
メイン商品と相性のいいサイドメニューを組み合わせることで、“バラで買うより少しお得”というイメージを訴求します。複数の商品を合わせ買いしてもらうことで、結果的に単価が上がりやすくなります。 - クロスセル(関連商品の提案)
「メイン料理とよく合うドリンクはいかがでしょう」「○○のトッピングはいかがですか」という提案をこまめに行うことで、お客様も自然に追加注文を検討しやすくなります。
(3)価値を先に伝える
最後に、「価格」よりも「価値」を前面に出す工夫です。お客様は値段だけを見て判断するわけではありません。
どんなメリットを得られるのかを十分理解したうえで、納得して購入したいという心理があります。
- 価格を見せる前に価値を丁寧に説明
高級ブランドショップがよく行う手法で、商品の背景や特徴、製作者の想いなどを先に伝えます。飲食店の場合でも、食材の産地や調理方法、健康面の利点などをお客様に理解してもらうと、「少し高くても試してみたい」という気持ちが生まれやすくなります。 - 商品・サービスのストーリーを作る
「ただ商品を売る」のではなく、お客様に「それを手にする意義」を語ることで、納得度が高まり客単価アップにつながります。
実践のためのチェックポイント
客単価アップを成功させるには、準備段階からしっかりと現状分析や目標設定を行うことが重要です。
以下のポイントを一つひとつ確認しながら施策を進めていくと、うまく実現しやすくなります。
1. 現状分析
まずは自社の数字や商品状況を把握することで、どこを伸ばせばいいのか明確になります。
- 月間来店客数の把握
平均的に1ヶ月で何人のお客様が来ているのかを知ることで、客単価アップの目標値が設定しやすくなります。 - 現在の平均客単価の計算
自店の商品のどこがよく売れていて、客単価の平均がいくらなのかを正確に知りましょう。 - 商品・サービスごとの利益率の確認
どの商品が高利益率で、どの商品が低利益率なのかを把握することで、アップセルやクロスセルする優先度が変わります。
2. 目標設定
次に、実際にどの程度の客単価アップを目指すか、数字で目標を立てましょう。
- 実現可能な参加率の予測
全員がプレミアム商品を購入するとは考えにくいので、どのくらいの割合なら獲得できそうかを過去のデータや業界平均などで見積もります。 - 必要な単価アップ額の算出
利益をどれだけ伸ばしたいかという視点から、1人あたりいくらアップすればいいのかを明確にします。 - 段階的な実施計画の立案
いきなり高額なオプションを導入するのではなく、段階的に施策を試しながら調整していくほうが失敗リスクを抑えられます。
3. 実施準備
最後に実施直前のステップとして、社内外での周知や研修を行い、スムーズにスタートできる状態を整えましょう。
- 新商品・サービスの開発
プレミアムメニューやセット商品の内容を決め、価格とのバランスを吟味します。 - スタッフへの教育・研修
現場スタッフがお客様に価値をしっかり伝えられるよう、商品の特徴やメリットを共有し、クロスセルやアップセルのトークを練習しておきましょう。 - 説明ツールの準備
ポップやメニュー表など、お客様が商品価値を理解しやすいツールを整備します。商品のストーリーや産地・素材についての情報をわかりやすくまとめておくと効果的です。
まとめ ―― 明日からできる第一歩
ここまで見てきたように、客単価アップは大きな投資を必要とせず、すでに来店しているお客様へ新たな価値を提供することで実行できる非常に効率的な利益改善策です。
新規集客に費用をかける前に、まずは以下のステップを踏んで現状を見直してみてはいかがでしょうか。
- 自社の数値を使って必要な単価アップ額を計算する
現在の売上や客単価、客数、利益率などを洗い出し、「あとどのくらい売上を増やせば利益が何倍になるのか」を明確にします。 - 現在の商品・サービスラインナップを棚卸しする
それぞれの商品の利益率や売れ行きを把握し、強化すべき商品がどれかをチェックします。 - お客様の要望やニーズを再確認する
アンケートやレビューなどから、新しい提案を受け入れてもらえそうな要望やニーズを把握します。 - 新しい選択肢の検討と準備
プレミアム商品やセット商品のアイデアを形にし、スタッフが説明できるように研修やマニュアルを整備します。
このように段階を踏むことで、客単価アップ戦略は着実に進めることができます。
おわりに
新規客の獲得に力を入れるか、既存客の客単価アップに注力するか。どちらを選ぶにせよ、結局は「お客様の満足度を高めること」が欠かせません。
客単価アップを成功させるためには、ただ値上げするのではなく、「お客様が追加料金を払ってでも試してみたい」と思える価値やストーリーを提供することが鍵となります。
客単価アップで得られる利益の伸びは大きく、しかも実行コストが低いのが最大のメリットです。
もし利益率や売上が思うように伸びないと感じているなら、まずは小さな取り組みから始めてみてください。