クラウド会計の選び方 ~freeeとジョブカン会計の特徴と現実~
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皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週木曜日に、経営者なら知っておきたい「業務効率」についての知識を解説しています。
「経理の知識がなくても、請求書の発行から仕訳、決算処理まで、全てがクラウドで自動化される」
このような触れ込みで、クラウド会計の導入を検討される経営者の方も多いのではないでしょうか。
確かに、クラウド会計には革新的な機能が備わっています。
しかし、実際に検証してみると、その実力は期待とは少し異なることが分かってきました。
私も以前はfreee専門でしたが、現在はfreeeとジョブカン会計を実際の業務で使用しています。
本記事では、その経験に基づいて、クラウド会計の現実的な活用方法をお伝えします。
クラウド会計導入の現実
最近では、クラウド会計のセミナーや展示会が増え、導入を検討する企業も増えています。
しかし、実際に使ってみると、未来を感じる反面、何とも言えない違和感を覚えることも事実です。
クラウド会計を導入しない理由としてよく挙げられるのが:
- コストが高い
- 必要な機能が使えない
- 乗り換えが面倒
しかし、実際には:
- 月2,000円前後からスタート可能
- 社内サーバー・メンテナンス費用も不要
- 便利な機能だけを選んで利用できる
- 無料での移行支援サービスもある
というように、これらの懸念は必ずしも正しくありません。
主要なクラウド会計サービスの特徴
実際の使用経験から、freeeとジョブカン会計オンラインの特徴についてご紹介します。
freeeの特徴
freeeは会計ソフトでありながら、以下のような特徴を持っています:
- 機能の統合
- 会計に加え、請求債権管理も可能
- 給与計算機能も搭載
- 申告機能も備える
- 独自の処理体系
- 簿記の知識不要をうたった設計
- 自動登録による完全自動処理
- 独自の仕訳ルール
しかし、「簿記の知識がなくても経理ができる」という触れ込みとは裏腹に、実際には簿記の基礎知識がないと、使いこなすことは困難です。
税理士の目から見ても、当初は脅威に感じましたが、実際に確認した範囲では、やはり一定の会計知識は必要不可欠でした。
ジョブカン会計オンラインの特徴
対してジョブカン会計は、複式簿記の原理に従った設計ですが、使いやすいインターフェースが特徴です:
- シンプルな操作性
- 直感的な画面設計
- 分かりやすいメニュー構成
- スムーズな操作感
- データ連携
- 他のジョブカンサービスとの連携
- スムーズなデータ取り込み
- オフライン版との併用も可能
freeeが独自の処理体系を採用しているのに対し、ジョブカン会計は従来の複式簿記の考え方に基づいて設計されています。
そのため、基本的な会計知識があれば、直感的に操作することができ、スムーズな導入が可能です。
現実的な運用方法
クラウド会計を効果的に活用するには、事業規模や業務内容に応じた使い分けが重要です。
クラウド単独での運用
年商3億円くらいまでの企業であれば、クラウド会計だけで運用することも可能です。
ただし、以下のような条件が揃っている必要があります:
- 取引内容
- 取引先が固定的
- B to B中心の事業
- 継続的な取引が多い
- 請求管理
- 請求書の発行件数が少ない
- 消し込み作業が単純
- 入金パターンが定型的
このような条件が揃っている企業であれば、クラウド会計単独でも十分に業務を回すことができます。
クラウドと既存ソフトの併用
事業規模が大きい場合や、取引が複雑な場合は、クラウドと既存の会計ソフトを組み合わせる方法が効果的です。
例えば:
- クラウドは自動仕訳生成装置として活用
- 仕訳データを既存ソフトに取り込み
- 決算作業は既存ソフトで実施
この方法により、クラウドの便利な機能を活かしながら、確実な会計処理が可能になります。
導入時の注意点
クラウド会計を導入する際は、以下の点に注意が必要です:
- データ量による制約
- 取引先が多すぎると動作が重くなる
- 取引先表示をしても多すぎてわかりにくい
- データベース性能の限界を考慮
- 決算業務の特性
- 複雑な仕訳が必要な場合は既存ソフトが有利
- 科目内訳明細の作成は既存ソフトで
- 確定申告は専用ソフトが必要
- ユーザーインターフェース
- ブラウザでの操作は従来のソフトより遅い
- 複数画面を開いての作業が必要
- 入力時のストレスを考慮
これらの制約は、クラウドサービスの特性上、完全には解消できない部分です。
特に決算期など、大量のデータを扱う時期には注意が必要ですので、業務のピーク時期を考慮した運用設計が重要になります。
まとめ:クラウド会計活用のポイント
このように、クラウド会計は便利な機能を持つ一方で、業務内容や規模によって適切な使い方を選択する必要があります。
導入前の検討ポイント
- 取引先の数や取引形態の確認
- 社内の経理知識やITスキルの把握
- 既存の業務フローとの整合性
導入に際しては、単にツールを変更するのではなく、自社の業務特性をしっかりと分析することが重要です。
特に、取引先の数や取引形態は、クラウド会計の効果を大きく左右する要素となります。
現在の業務フローを把握した上で、どの部分をクラウド化できるのか、慎重に見極める必要があります。
運用時の工夫
- 複数のソフトを目的に応じて使い分け
- 自動仕訳機能は段階的に活用
- 定期的な運用状況の確認
クラウド会計の機能を一度に全て活用しようとするのではなく、できるところから少しずつ導入していくアプローチが効果的です。
例えば、最初は銀行取引の自動取込だけを利用し、慣れてきたら請求書発行や経費精算など、徐々に活用範囲を広げていく方法が推奨されます。
このように、クラウド会計は決して万能ではありませんが、自社の業務特性を見極めた上で適切に活用すれば、経理業務の効率化に大きく貢献します。
重要なのは、「クラウドありき」ではなく、自社の業務に最適な形でクラウドを取り入れていく姿勢です。
次回は、クラウドツール活用の総まとめとして、現実的な活用戦略についてお話しします。