税務調査はどのように終わるの?経営者のための終了手続き完全ガイド

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。
税務調査を受ける際、多くの経営者にとって最も気になるのは「調査がどのように終わるのか」という点ではないでしょうか。
実は、税務調査の終了時には国税通則法で定められた明確な手続きが存在し、これを理解しておくことで
「思わぬ不利益を受ける」「調査官との意見の相違にうまく対処できない」といったリスクを回避することができます。
私は税理士として多くの税務調査に立ち会ってきましたが、この調査終了時の手続きについて誤解が広がっているケースをたびたび目にしてきました。
そこで本記事では、税務調査終了時の法律上の3つのパターンを分かりやすく解説するとともに、経営者や担当者が押さえておくべき実務上のポイントを整理してご紹介します。
税務調査終了時に認められる3つのパターン
まず押さえておきたいのが、税務調査の終了時には国税通則法第74条の11第1~3項で定められた3つのパターンしか存在しないということです。
法律上、この3つ以外の終わり方は認められていません。ここを誤解していると、調査官とのやりとりで不利な判断をしてしまう恐れがあります。
1. 是認(申告内容に問題なし)
「是認(ぜにん)」とは、法律上は「更正決定等をすべきと認められない場合」を指し、平たく言えば「申告内容に問題がなかった」という状態です。
調査の結果、追加の納税が必要ないと判断された場合には、納税者の申告内容がそのまま認められたということになります。
2. 更正(税務署からの一方的な処分)
「更正(こうせい)」とは、税務署が強制的に税額を修正する手続きのことです。
あくまでも税務署が一方的に“誤りがある”と判断した場合に行うもので、納税者から自主的に誤りを認めて修正したものではありません。
3. 修正申告(納税者が自主的に修正)
「修正申告」とは、調査の結果、自社(または個人)が申告内容に誤りを含んでいたことを納税者自身が認め、自主的に税額を修正する手続きを指します。
調査官と相談しながら作成するケースが多いため、“納税者側の自主的判断”といっても、実際は調査官との調整が行われることも珍しくありません。
「是認」にまつわる2つの大きな誤解
税務調査で「問題なし」と認められた場合には「是認通知書」が交付されることがあります。
しかし、ここにはいくつか誤解が広がっているのも事実です。
特に多いのが以下の2点で、思わぬ混乱を招くことがあるため注意が必要です。
1. 実地調査以外では是認通知は発行されない
是認通知書が発行されるのは、調査官が実際に会社へ臨場し、帳簿書類を直接確認する「実地の調査」の場合のみです。
電話や書面を通じた確認(いわゆる文書提出や質疑応答による調査)であれば、基本的には口頭での連絡にとどまり、「是認通知書」という書面は交付されません。
こうした点を知らないと、電話や書面による調査で「問題なかったと聞いたのに通知書が届かない」と心配になる方が少なくないため、事前に頭に入れておきましょう。
2. 「指導に留める」場合でも是認通知が発行される
ごく軽微な誤りや記載漏れなどがあった場合、調査官が「法的処分ではなく口頭指導にとどめる」という判断を下すことがあります。
たとえば、多少の経費区分ミスや端数処理の違いなどがこれに該当するケースです。
この場合、「不備があったけれど税金の修正は必要ない」という扱いにはなるのですが、法的な観点では
是認に分類されるため、調査官からは『是認通知書』が交付されるという点を理解しておきましょう。
「軽微なミスを指摘されたから是認ではないのでは?」と勘違いしがちですが、実務上はあくまでも
“更正決定等をすべきと認められなかった”と判断されますので、書類としては是認通知書が出されるのです。
更正と修正申告:意外と知られていない実務上の違い
次に更正と修正申告の違いについて解説します。
税務調査の現場では、「修正申告は納税者にとって不利になるからなるべく避けたい」と考えてしまう経営者の方もいますが、
実は法律上の原則は「誤りがあったら税務署が更正する」という流れであり、修正申告はあくまで“納税者の便宜を図るための代替手段という位置づけになっています。
1. 更正のメリット
更正が行われた場合、以下のメリットがあります。
- 不服申立ての権利が残る
納税者が更正処分に対して不服がある場合、「納税通知書」などが届いた後、所定の手続きを踏んで不服を申し立てることができます。 - 納税者に特別な不利益はない
更正だからといって罰金的なペナルティが重くなるわけではありません。過少申告加算税や重加算税なども、あくまで事実関係や悪質性で判断されるものです。 - 税額や加算税率が高くなることはない
修正申告と比べても、更正だから特別に税率が上がるような仕組みはなく、加算税や延滞税の計算は法律で規定されています。
2. 修正申告の特徴
一方で、調査現場では修正申告が選択されることもよくあります。修正申告には以下のような特徴・メリットがあるためです。
- 不服申立ては不可能(ただし更正の請求は可能)
修正申告は納税者が自主的に税額を修正する手続きであるため、「自分で認めた以上、そこに不服を唱えるのはおかしい」という考え方が基本です。ただし、後になってさらに誤りが発見された場合には、「更正の請求」によって税額を下げることは可能です。 - 調査官との交渉・バーターが可能
誤りを全部認めて修正申告してもらいたい調査官側と、「一部については納得がいかないが妥協してでも早く調査を終わらせたい」納税者側の利害が一致すると、指摘事項の一部取り下げなどの交渉が行われることがあります。 - 調査終了までの時間が短縮される可能性がある
修正申告をすれば、調査官側の事務手続きも相対的に簡素化されることが多く、結果的に調査期間が短くなることが期待できます。
実務で知っておくべき交渉のポイント
ここまで述べたように、更正と修正申告にはそれぞれの特徴があり、どちらが絶対に有利・不利というわけではありません。
しかし、実際の現場では修正申告での決着が選択されるケースがしばしば見られます。そこには以下のような背景があります。
- 不服申立ての可能性がない
税務署からすると、修正申告は「納税者が自主的にミスを認め、納税額を修正した」という形になるため、その後の不服申立てを受けるリスクがなくなります。- 否認根拠の明確な説明が不要
更正処分の場合、税務署は後で不服申立てを受ける可能性を想定し、なぜ税額を修正したのかという根拠をはっきり示す必要があります。しかし修正申告であれば、調査官は「納税者自身が修正を選択した」という形にできるため、説明責任は相対的に軽くなります。- 税務署内の事務手続きが簡素化される
修正申告が選択されると、税務署内の書類作成や内部手続きも減るため、調査官としてはスムーズに手続きを完了しやすくなります。
このような事情から、調査官は「修正申告に応じてくれるなら、一部の指摘を撤回する」というような“バーター”を持ちかけることがあります。
納税者にとって不本意な指摘もあるかもしれませんが、一部のメリットを得つつ早期解決を図れる場合は、修正申告を選択するのも一つの手段です。
税務代理人への通知と再調査の制限
税務調査で重要なのは、調査終了後も含めて「次のリスクにどのように備えるか」を意識することです。
ここでは、税理士など税務代理人への通知と再調査の制限について補足しておきます。
1. 税務代理人への通知
原則として、調査結果の説明は納税者本人に対して行われるものですが、納税者の同意があれば税理士などの税務代理人が説明を受けることも可能です。
- 納税者の同意が必要
税理士が調査立会いをしている場合でも、税務署が代理人に結果を直接説明するには、あらためて「代理人が説明を受けることを納税者本人が承諾している」という事実を確認する必要があります。 - 同意の確認方法
多くの場合、書面や口頭で同意を得る手続きを行うため、あらかじめ税理士に「最終報告も税理士を通して受けたい」と希望を伝えておくとスムーズです。
2. 再調査の制限
一度税務調査が終了した後に、同じ事案で税務署が再度調査を実施することは原則としてできません。
法律上、「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に限り再調査が許されるため、
よほど重要な新事実が出てこない限り、納税者に何度も調査が入ることはないというのが基本です。
これは納税者の権利保護のために設けられた制限でもあります。
「一度調査が終わったのに、同じ内容で再び呼び出しを受ける」というような事態は、法的には極めて限定的です。
まとめ:経営者が押さえておくべきポイント
税務調査の終了手続きをスムーズに進めるためには、「法律上の3パターン(是認・更正・修正申告)」を明確に理解し、ケースに応じた最適な選択をすることが大切です。
特に、更正と修正申告のいずれを選ぶかは、経営者にとって戦略的な判断が求められるポイントとなります。
- 調査終了時の3パターン(是認・更正・修正申告)を理解する
法律上、税務調査後の結末はこの3つにしかなりません。どのパターンに該当するのかを正しく把握しておくことが、後の手続きの見通しを立てる上でも重要です。 - 更正と修正申告の選択は状況に応じて戦略的に判断する
「不服申立ての可能性を残したいから更正を選ぶ」か、「調査官と交渉しやすく手続きを簡略化できる修正申告を選ぶ」かは、企業の事情や交渉の余地次第です。 - 修正申告には交渉の余地があることを認識する
調査官としても修正申告を求めるインセンティブがあるため、指摘事項の一部撤回などを引き出せる場合があります。もちろん過度な期待は禁物ですが、交渉材料として押さえておくのは有効です。 - 税務代理人の活用と再調査の制限を把握する
調査の最終段階で「代理人が説明を受けるかどうか」を明確にしておくと、スムーズに手続きが完了します。また、一度終了した調査をやり直すには法的制限があることを理解しておけば、調査後の不安を減らすことができるでしょう。
税務調査は、日常業務と並行して対応する必要があるため、経営者や経理担当者にとって大きな負担になりがちです。
しかし、調査終了時のパターンや手続きをしっかり理解しておくことで、税務署とのやりとりをスムーズにし、不必要なトラブルを回避することができます。
ぜひ本記事でご紹介したポイントを念頭に置きながら、自社の状況に応じた最適な対策を講じていただければ幸いです。