マーケティングシステムの作り方 ~売上が伸び続ける仕組みの構築法~
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週火曜日に、経営者なら知っておきたい「売上増加」についての知識を解説しています。
多くの方が「売上を伸ばす=新規集客あるのみ!」と考えがちですが、実際は集客以外にも「客単価アップ」や「購入頻度アップ」を通じて売上を伸ばす方法が数多く存在します。
さらに、どれか一つの施策に偏りすぎると、予想以上に広告費や労力がかさんでしまい、結果的に利益が残らない場合も多いのです。
そこで重要になってくるのが、3つの要素(客数 × 客単価 × 購入頻度)を軸に施策を一貫性のある“システム”として捉える「マーケティングシステム」の考え方です。
以下で、その構築方法とメリット、そして具体的な進め方を見ていきましょう。
マーケティングシステムとは何か
はじめに、マーケティングシステムとは何かを整理しておきます。
企業が単発的に販促活動を行うと、どうしても数値を測定する仕組みが整わず、効果の検証やその後の改善につながりにくくなります。
また、目的やゴールをあいまいにしたまま施策を行うと、「なぜ、今この施策を行う必要があるのか」が社内でも共有されにくいという問題が起きます。
こうした“場当たり的な販促”に陥らないために、客数・客単価・購入頻度という売上を構成する基本要素に基づき、
「誰に・何を・どのように」提供するのかを体系立て、一連の流れをシステム化するのがマーケティングシステムです。
施策をシステムとして捉えることにより、一貫性・測定可能性・改善サイクルが生まれ、少ない予算や限られた人材でも大きな成果を目指せるようになります。
売上が伸び続けるための3要素
マーケティングシステムの根幹にあるのが、次の公式です。
売上 = 客数 × 客単価 × 購入頻度
この3つの要素に沿って、自社の施策を整理してみると、
- 「客数」を増やす施策:新規顧客を呼び込むための“集客商品”や広告
- 「客単価」を上げる施策:高単価商品・利益商品の設計や販売方法
- 「購入頻度」を高める施策:既存客のリピート率を向上させるための仕組み
といったように分類しやすくなります。
しかし実際には、「なぜ売上が伸びないか」を振り返る際に、ほとんどのお店や企業は「とりあえず集客が足りない」と考えて、新規集客に大きなコストを投じがちです。
新規客を増やすことが効果的な場合もありますが、既存客の客単価アップや購入頻度アップを実行したほうが、より低コストで大きな成果が出るケースもたくさんあるのです。
ここで大事なポイントは、「自社は今、3つのうち“どこ”を強化すべきか」を見誤らないこと。
次に紹介する「マーケティングシステム構築のステップ」を踏むことで、どの部分に手を打つべきなのかを明確にできます。
マーケティングシステム構築の5ステップ
マーケティングシステムを組み立て、売上を着実に伸ばし続けるには、以下の5つのステップを意識して取り組むとスムーズです。
まず全体像をつかんでもらうため、5ステップをリストアップします。
その後に、各ステップでどのような作業を行い、どのような成果が得られるのかを説明していきます。
- リサーチ(商品・顧客・競合の分析)
- 課題・チャンスの発見
- 目的・目標設定
- 実践(販売設計図作成→施策実行→効果測定)
- 反省会と改善
このように並べると、流れとしてはオーソドックスなマーケティングプロセスと重なる部分がありますが、
中小企業の場合、限られたリソースのなかで必要最低限のポイントをしっかり押さえることがもっとも重要です。
以下では、それぞれのステップを具体的に説明していきます。
1. リサーチ(商品・顧客・競合の分析)
最初のステップとして、自社の商品・顧客・競合を徹底的にリサーチすることが大切です。
たとえば自社の商品を「集客商品」「継続商品」「利益商品」という3つのカテゴリーに分けたり、顧客を「新規客」「既存客」「VIP客」などにランク分けしたりして、現状を客観的に把握します。あわせて、競合の動向や広告媒体の使い方も把握しておくことで、「自社ならではの強み」や「まだ気づいていない弱点」が見えやすくなります。
このステップでのポイントは、数字を使って客観的に分析することです。売れている商品・売れていない商品がなぜそうなっているのかを明確化し、それが既存顧客・新規顧客のどちらに支持されているのかを知るだけでも、次の施策を立案するときの“軸”ができます。
2. 課題・チャンスの発見
リサーチ結果をもとに、何が課題なのか、どこにチャンスがあるのかを洗い出します。
- 既存客向けの商品ラインナップが充実しておらず、客単価アップが見込めない
- “集客商品”が明確に設計されておらず、新規客を呼び込む決定打に欠ける
- 定期的に再来店を促すしくみ(DMやLINE、メールマガジン)が未整備でリピート率が低い
- 競合店舗と比べてオファー(特典や価格設定)に魅力が乏しい
- 行き当たりばったりで広告を打つため、検証と改善が回せていない
このような課題をリストアップし、同時に「このポイントを改善できれば、いち早く伸びるのではないか」というチャンスも確認します。
ここで大切なのは、明文化することです。なんとなく感じていた弱点を具体的に書き出し、チャンスとして活かせる要素もセットで押さえておくと、次の目標設定がスムーズです。
3. 目的・目標設定
課題やチャンスを発見したら、その後の施策が何のために行われるのかを明確にし、数値目標を定めます。
- 「新規客を月○○名増やしたい」
- 「既存客の客単価を○○円アップする」
- 「購入頻度を今の○倍にしたい」
そして、その数値目標によって「売上」「認知度向上」「リピート率改善」といった目的が達成されたかどうかを、施策後に検証できるようにします。
ここでのポイントは、結果を定量的に測れる指標を必ず設けることです。売上に直結しない施策であっても、「何人の顧客が反応したか」「SNSの投稿に対してどれだけのアクションがあったか」といった形で可視化できると、次のステップ「実践→効果測定→改善」で大いに役立ちます。
4. 実践(販売設計図作成→施策実行→効果測定)
目標を設定したら、いよいよ実際の販促活動に着手します。しかし、その際にもあらかじめ“販売設計図”を作成することが重要です。
たとえば設計図には、
- 「誰に」(ターゲットは見込み客か、既存客か、VIP客か)
- 「どの商品を」(集客商品・継続商品・利益商品)
- 「どのような媒体で」(チラシ、SNS、店舗POP、DMなど)
- 「いつ伝えるか」(週・月ごとのタイミング)
といった要素をまとめます。このように事前に整理しておくと、“狙う効果”と“使う手段”のつながりが明確になり、やりっぱなしになりがちな施策を検証しやすくなるのです。
施策を実行した後は、必ず効果測定を行います。効果測定ができない手法は避ける、あるいは最低限でも数字を集計できる仕組みを用意しておくのが望ましいです。
具体的な例として、「チラシで来店した人にクーポン番号を提示してもらう」「SNSからの問い合わせには専用のURLやフォームを使う」など、できる限り数値化可能な形に工夫すると良いでしょう。
5. 反省会と改善
最後のステップが反省会と改善です。
- 施策前に設定した「目的・目標」に対して、どの程度の成果が得られたか
- 未達だった場合、原因はどこにあったのか
- もし達成していたとして、もっと伸ばす余地はないのか
これらをチームやスタッフと共有し、次のサイクルに活かすのです。
ここで気をつけたいのは「できなかった点を否定しあう反省会」にしないことです。
仮に目標に届かなかった場合でも、「なぜそうなったのか」を建設的に洗い出すことで、次回はより精度の高い取り組みが可能になります。
弱点を特定する判断基準と、業界平均の調べ方
弱点を見きわめるポイント
マーケティングシステムの構造を整えた後、実際に売上を伸ばしていくには、「システムのどの部分が一番弱いか」を見つけて集中的に改善する方法が効果的です。
- 新規客数が不足しているのか
- 客単価が低く、あまり利益が残らないのか
- リピート率が伸びず、一度来店した顧客が離れてしまうのか
漠然と「なんだか売上が足りないから広告を打つ」というアプローチを取ってしまうと、本来強化すべき“既存顧客の単価アップ”や“購入頻度アップ”が手つかずになります。
弱点がどこにあるかを知るためには、次のような判断基準を活用すると良いでしょう。
判断基準の例:業界平均との比較
「うちのリピート率は高いのか低いのか、そもそも基準がわからない」
「客単価は業界平均と比べて妥当なのだろうか」
このような悩みを持つ経営者の方は多くいらっしゃいます。そこで、有効なアプローチの一つとして「業界平均との比較」が考えられます。
たとえば、小売業界や飲食業界、美容業界などでは、それぞれの業界団体や組合が独自のアンケートや統計調査を実施・公開しているケースがあります。
こうしたレポートをチェックすることで、自社の客単価やリピート率が平均より高いのか、低いのかの大まかな目安を把握できます。
また、同業者が集まる勉強会や交流会の場で、数字までは出せなくとも「最近○○が伸び悩んでいる」という話を共有することで、なんとなく相場感を得られることがあります。
もちろん詳細なデータ開示とまではいかなくても、自社の現状を客観視する足がかりとして参考にできる情報は多いはずです。
もし業界平均がなかなか入手できない場合は、「数字のトレンド」を比較するだけでも十分有益です。
たとえば月々の客数・客単価・リピート率・売上総額がどのように推移しているかをグラフ化し、傾向を探るのです。
改善ポイントが明確になれば、そこを強化すれば大きな効果が期待できます。
まとめ
ここまで、マーケティングシステムの全体像と具体的なステップ、そしてシステムの弱い部分を見つける際の基準となる業界平均の調べ方などをお伝えしてきました。
まず大切なのは、「売上を伸ばしたい」という目標を“客数・客単価・購入頻度”に分解して考えることです。
この3つの要素に基づいて販促や商品構成を見直すと、自分たちがどこを強化するべきかが自然と見えてきます。
さらに、その過程では以下のポイントも意識しておくと良いでしょう。
- マーケティングシステムを一貫性のある仕組みとして捉える
単発的な集客だけでなく、継続的に売上を伸ばすには、誰に何をどのように売るかを体系立て、「集客商品」「継続商品」「利益商品」を明確に整理することが重要です。 - 目的・目標を数値で設定し、結果を振り返る仕組みを作る
「売上が何%アップしたのか」「リピート率がどの程度改善したのか」など、どの施策がどのような効果をもたらしたのかを測定できるよう、事前に計画を立てましょう。やりっぱなしでは改善に生かせません。 - システムの一番弱い部分を探して強化する
お金や人材を大量投入できない中小企業こそ、闇雲に広告を打ち続けるのはリスク大です。客数・客単価・頻度のどれが弱点かを把握し、そこを重点的にテコ入れすることが、最小の投資で最大の効果を得る近道です。
こうした流れでマーケティングシステムを構築すると、広告費のムダ打ちや、せっかく集客できたのにリピート率が低く結果的に利益が伸びない、といった事態を回避しやすくなります。
また、数字で現状を把握できるため、チーム内の情報共有がスムーズになり、スタッフも「どんな狙いで今の施策を行っているのか」を理解しやすくなるでしょう。
ぜひ、今回ご紹介したステップと考え方を参考に、みなさまの企業・店舗での売上アップに役立ててください。
マニュアルやツールが先行するのではなく、まずは自社の売上を“客数・客単価・購入頻度”に分解して見るというところから始めるだけでも、大きなヒントが得られるはずです。
本記事を通じて、少しでもみなさまの経営にお役立ていただければ幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。