「新設法人は2年間免税」って本当?知っておくべき消費税課税のポイント
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週水曜日に、経営者なら知っておきたい「節税対策」についての知識を解説しています。
「新設法人は2年間は免税事業者になれる」という話を聞いたことがあるかと思います。
しかし、これは必ずしも正しくありません。2年間の免税期間が取れないケースも存在します。
今回は、意外と知られていない「特定期間」による課税判定と、その対策についてお話しします。
基本的な消費税の課税判定の仕組み
消費税の納税義務は、原則として「2年前の課税売上高が1,000万円を超えるかどうか」で判定します。この2年前の期間のことを「基準期間」と呼びます。
新規設立法人の場合、設立1期目と2期目は2年前がありませんので、この原則だけを見ると免税事業者となります。
要注意!特定期間による判定
ただし、ここに落とし穴があります。「特定期間」という考え方です。
特定期間とは事業年度の上半期(最初の6ヶ月間)のことですが、重要なのは以下の2つの条件を両方とも満たす場合にのみ、翌期が課税事業者となる点です:
- 特定期間の課税売上高が1,000万円を超える
- 特定期間の給与支払額が1,000万円を超える
どちらか片方だけでは課税事業者にはなりません。必ず両方の条件を満たす必要があります。
例えば:
- 売上2,000万円、給与800万円 → 免税事業者のまま
- 売上800万円、給与1,200万円 → 免税事業者のまま
- 売上1,200万円、給与1,200万円 → 課税事業者に
具体例で考えてみましょう
会社設立のケースで考えてみます。
8月1日に会社を設立し、3月決算とした場合を想定します。毎月の売上が2,000万円、給与が200万円ほどある会社だとしましょう。
第1期は8月から3月までの8ヶ月間となりますが、このうち特定期間は最初の6ヶ月間、つまり8月から1月までとなります。この6ヶ月間で見ると:
- 売上は月2,000万円×6ヶ月=1億2,000万円
- 給与は月200万円×6ヶ月=1,200万円
となり、売上も給与も1,000万円を超えてしまいます。
結果として、第2期(4月から翌年3月まで)は消費税の課税事業者となってしまうのです。つまり、よく言われる「2年間は免税」とはならないケースが出てくるわけです。
対策:決算期変更を活用した節税テクニック
ここで使える対策が「短期事業年度」を利用した方法です。
先ほどと同じ8月1日設立の会社でも、最初の決算日を2月末に設定すれば、第1期は7ヶ月となります。
7ヶ月以下の事業年度は「短期事業年度」となり、特定期間による判定が適用されません。
つまり、同じ事業規模であっても、決算期を工夫することで第2期も免税事業者として事業を継続できるわけです。
実務上の留意点
1. 決算期変更には正当な理由が必要
単なる税金対策ではなく、取引先の決算期に合わせるなど、事業上の合理的な理由が求められます。
税務調査でも、変更理由について確認される可能性が高い項目です。
2. 手続面での準備
決算期変更には以下の手続きが必要です:
- 定款変更(株主総会決議)
- 法人税・消費税の届出書
- 登記事項の変更
手続きには時間とコストがかかることを考慮しましょう。
3. 事業への影響
決算期の変更は様々な影響をもたらします:
- 取引先との契約や支払時期の調整
- 決算作業の準備や社内体制の整備
- 監査対応(該当する場合)の準備
4. 将来を見据えた判断
この対策はあくまで一時的なものです。将来的な事業拡大やインボイス制度への対応を考えると、むしろ早めに課税事業者となることを選択するケースもあります。
短期事業年度を利用した方法には様々な検討事項があります。必ず税理士等の専門家に相談し、自社の状況に合わせた最適な判断をすることをお勧めします。
まとめ:新規設立法人の消費税判定、知って得する対策のポイント
「新規設立法人は2年間免税」という話は、必ずしも正しくありません。
特定期間(事業年度の上半期)における売上と給与支払額の両方が1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になってしまいます。
ただし、決算期を工夫して短期事業年度(7ヶ月以下)とすることで、この特定期間の判定を回避できる可能性があります。
これは法律で認められた正当な方法の一つですが、実施にあたっては様々な留意点があります。
特に重要なのは、この施策は一時的な対応に過ぎないということです。
事業が順調に成長していけば、いずれは課税事業者となることは避けられません。
むしろ、インボイス制度への対応や取引先との関係を考えると、自主的に課税事業者となることを選択するケースも増えています。
消費税の課税判定は、事業の成長に大きく関わる重要な経営判断の一つです。
表面的な税負担の軽減だけでなく、会社の将来像も見据えた上で、税理士等の専門家と相談しながら検討することをお勧めします。
ぜひ、今回の内容を参考に、自社に最適な選択を検討してみてください。