銀行格付けの真実:格付けの70%を占める決算書の一次評価

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。

中小企業の経営者の方々からは、よくこんな質問をいただきます。

「決算書の数字を良くすれば、銀行の評価は上がるんですよね?」

一見もっともな疑問ですが、実は答えは「イエス」でもあり「ノー」でもあります。たしかに、銀行格付けの約70%は、決算書による一次評価で決まるのは事実です。

しかし「ただ数字を良く見せればいい」という単純な話ではなく、安易な数字の“粉飾”や“組み替え”は逆効果にもなり得ます。

では、銀行は決算書のどこを見て、どのように格付けを判断しているのでしょうか。本記事では、その仕組みや評価のポイントを詳しく解説していきます。

決算書評価の基本的な考え方

銀行は決算書に記載されるすべての数字を同列に見ているわけではありません。

売上が伸びているからといって安心できるわけでもなければ、資産が多いからといって必ずしも高評価になるわけでもありません。

実際には、重要度の高い項目とそうでない項目が明確に分かれているのです。

例えば、

  • 「うちは売上が伸びているから大丈夫だろう」
  • 「利益は少ないけど、資産がたくさんあるから…」

といった考え方は、銀行の格付け評価とはズレてしまっている可能性があります。

そこで、まずは銀行がどの指標を重視しているかを見ていきましょう。

銀行が重視する3つの指標

銀行の決算書評価において、軸となるのは以下の3つの指標です。この3つで評価の約90%以上が決まるとも言われています。

1. 純資産の部合計

  • 会社の体力を表す数字
  • これまで積み上げてきた利益の総合値
  • 自己資本比率の基礎にもなる

企業がどれだけ内部留保を持っているか、言い換えれば「自分の力でどれだけ潰れずに経営を続けられるか」を示す重要な指標です。

2. 営業利益

  • 本業で稼ぐ力を表す
  • 金利や経常的な支払いに耐えられるかを判断
  • 2期連続で赤字になると大きく警戒される

売上から仕入れや販管費を引いた、本業の実力ともいえる数字です。たとえ売上が大きくても、この部分が赤字では「稼ぐ力が弱い」とみなされます。

3. 経常利益

  • 返済能力を見極める重要な指標
  • 毎月の返済原資となる
  • 安定的な黒字を継続できるかがポイント

営業利益に、営業外収益や営業外費用を加減したのが経常利益です。金融機関は、この数字から「返済に充てられるお金がきちんと生み出せるか」を測ります。

129点満点と「55点の壁」

決算書評価を数字に落とし込む際、多くの銀行が「129点満点」の評価システムを採用していると言われています。

この評価システムでは55点という分岐点が非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、ここを超えると融資条件が大きく好転するケースが多いからです。

  • 無担保融資が検討可能になる
  • 運転資金の借入がよりスムーズに
  • 金利の引き下げ交渉がしやすくなる

では、どのようにすれば55点を取りやすくなるのでしょうか。そのカギを握るのが、銀行独自の配点項目です。

主な評価項目と配点のポイント

ここでは、銀行がどのように点数を割り当てているのか、代表的な項目を見てみましょう。

ただし、銀行によって若干の違いはあるため、大まかなイメージとしてご覧ください。

1. 安全性(基礎体力)

  • 自己資本比率(10点満点)
    ・30%以上で6点前後を獲得できる
    ・業界平均との比較も重要
  • ギアリング比率(10点満点)
    ・負債と純資産の比率を示す
    ・200%以内がひとつの目安

安全性を表す指標は、会社が外部からの借入にどれだけ依存しているかを示すため、銀行としては「返済リスクの低さ」を確認する材料となります。

2. 収益性(稼ぐ力)

  • 売上高経常利益率(5点満点)
    ・3%以上で4点程度を狙える
    ・安定した利益率が望ましい
  • 総資本経常利益率(5点満点)
    ・3%以上が目標
    ・総資本(自己資本+他人資本)に対する利益率を見る

収益性の指標は、その企業がどれだけ効率よく利益を生み出しているかを測る目安です。持続的に利益が出せるかどうかが重視されます。

3. 返済能力(最重要項目)

銀行が特に重視するのが、返済能力を測る指標です。

ここで高得点が取れれば、他の項目がやや低くても「55点ライン」に近づきやすいのが大きな特徴です。

  • 債務償還年数(20点満点)
    ・製造業は10年以内、非製造業は7年以内が目安
    ・返済にどれだけ年数がかかるかを測定
  • インタレストカバレッジレシオ(15点満点)
    ・営業利益 ÷ 支払利息
    ・3倍以上が望ましい
  • 減価償却前営業利益
    ・実質的なキャッシュフローを把握する指標
    ・ここにも大きな配点がある

実は、これら3項目(債務償還年数・インタレストカバレッジレシオ・減価償却前営業利益)だけで合計55点分もの配点が割り当てられているケースが多いのです。

そのため、この返済能力を示す指標で高得点を取れるかどうかが、格付けアップのカギを握っています。

見かけの数字だけを良くしても逆効果になる理由

ここまでの話を聞いて、「では決算書の数字を調整すれば一気に評価が上がるのでは?」と考える方もいるかもしれません。

しかし、短絡的な組み替えや粉飾は、むしろ逆効果になりやすいのが銀行融資の世界です。具体的には下記のような“勘違い改善”がよく見受けられます。

  • 役員報酬を極端に下げて利益をかさ上げする
  • 生命保険の活用などで利益を意図的に調整する
  • 売掛金を水増しして売上を大きく見せる

こうした操作は、銀行の信用を損なう可能性が非常に高く、長期的には大きなリスクとなります。

1. 銀行の実態把握力

銀行は提出された決算書だけを鵜呑みにするわけではなく、長年の実務経験やデータを活用して、数字の信憑性を多角的にチェックしています。

たとえば、

  • 業界平均値との比較
  • 過去の推移や当座預金の動き
  • 売掛金回収期間や在庫回転率

など、外からは見えにくい部分まで丹念に確認し、数字の整合性をチェックするのです。

2. 決算書の精査

銀行は税務申告書との照合や、役員報酬の妥当性、勘定科目の中身などを細かく調べ、不自然な仕訳や経費計上がないかを見抜きます。

帳簿上の数字だけではなく、実際に現場を訪れて在庫の状況や設備の稼働実態も把握し、総合的に「この決算がリアルに即しているのか」を判断するのです。

3. 修正評価の実施

万一、提出された決算書の数字に疑わしい点があれば、銀行は「修正評価」を行います。

  • 不良在庫を差し引いて在庫価値を下げる
  • 回収不能と思われる売掛金を除外する
  • 不動産の実勢価格を反映し、表面数字を変動させる

このように、実態を正しく反映した数字に“修正”したうえで、改めて格付けを付与するわけです。

したがって、小手先だけの組み替えは意味がないどころか、下手をすると「信頼できない会社」として見なされかねません。

実効性のある改善のために

では、どうすれば真に銀行格付けを上げられるのか。

多くの成功事例に共通するのは、「決算書の数字だけでなく、事業の実態から改善する」という考え方です。

ここでは、そのステップを簡単に見ていきましょう。

1. 現状分析

まずは「自社の現在地を把握する」ことがスタートラインです。

  • 銀行が採用している基準を念頭に、自己診断による評点を試算
  • 純資産、営業利益、経常利益の3指標を中心に弱点を洗い出す
  • 55点のボーダーラインとの距離を把握
  • 業界平均との比較や競合他社との比較も有効

ここで重要なのは、「自社がどこで評価を落とし、どこを伸ばせば点数アップにつながるか」を具体的に把握することです。

2. 優先順位の決定

限られたリソースを有効に使うために、どの指標の改善を優先するかを絞り込む必要があります。

銀行格付けのポイントが高い返済能力指標(債務償還年数やインタレストカバレッジレシオなど)を第一に考えつつ、本業の収益力や財務体質をバランスよく強化していくことが鍵となります。

3. 具体的な施策

ここからは、実務レベルの具体策を例として紹介します。

単に「数字を増やす」だけでなく、会社のキャッシュフローや利益体質を根本から改善する視点が必要です。

【キャッシュフロー改善の実務】

キャッシュフローの改善は「在庫の山を見直す」ことから始まる場合が多いものです。

以下のように、地道な取り組みが実際の銀行評価にも直結します。

  • 在庫回転率の向上
    在庫水準の適正化や発注方法の見直しを行い、滞留在庫を減らす。死に筋商品の処分を徹底する。
  • 売掛金回収の早期化
    請求書の発行タイミングや回収条件を見直し、与信管理を強化する。資金繰りの安定が返済能力の向上につながる。

【収益力強化のポイント】

「売上増」を目指すのはもちろん大切ですが、最終的には「利益を確保する力」が評価されます。

  • 粗利率の改善
    原価低減活動や販売価格の見直しを行い、利益率を確保。
  • 固定費の見直し
    本当に必要な経費なのかを精査し、業務効率化やアウトソーシング活用なども検討する。

【財務体質改善の進め方】

見た目だけでなく、実質的に負債を減らし、自社の資本を厚くする取り組みが重要です。

  • 不要資産の売却
    遊休資産やノンコア事業の整理を進める。
  • 政策保有株式の見直し
    実質的に収益や連携効果が見込めない株式を適正に処分し、キャッシュを手元に確保。
  • 仕入先との条件調整
    支払タイミングを調整するなど、運転資金の効率化を図る。

まとめ:決算書評価の本質を理解する

最後に、今回のポイントを振り返ってみましょう。

  1. 決算書評価は格付けの70%を占める
    – 特に純資産、営業利益、経常利益が核となる。
  2. 129点満点と55点の分岐点
    – 返済能力を示す3項目だけで55点分もの配点があり、ここを攻略すると融資条件が大きく改善。
  3. 見かけの数字合わせは逆効果
    – 銀行は実態把握のノウハウを豊富に持つため、小手先の粉飾はすぐに見抜かれ、信頼を失う。
  4. 本業の改善が格付けアップの近道
    – 財務指標だけでなく事業内容自体を地道に改善し、キャッシュフローと収益力を高めることが最も重要。

安定的に黒字を出し、返済能力を高め、純資産を厚くするという基本方針に沿って着実に事業改善を進めることが、結果的に銀行からの信用を高め、格付けを上げる王道です。

格付けの70%を占める決算書評価は確かに大きなウェイトを持ちますが、その数字に説得力を持たせるのは、あくまでも「実体ある経営」の積み重ねです。

表面的な粉飾に頼らず、会社の体質を改善していくことで、必ず銀行からの見る目も変わってくるはずです。

今後も継続的な改善を意識しながら、銀行との良好なパートナーシップを築いていきましょう。

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