売上を安定させる「構造的リピート」戦略 – レンタルビジネス化の活用法
皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週火曜日に、経営者なら知っておきたい「売上増加」についての知識を解説しています。
多くの中小企業では、どのようにすればお客様に継続的に来店してもらえるのか？という大きな課題を抱えています。
一度ご利用いただいて終わりではなく、何度も足を運んでもらい、安定した売上を確保するための仕組みづくりは、ビジネスを継続・拡大していくうえで重要な要素です。
本記事では、その課題を解決するための「構造的リピート」という考え方に注目し、その中でも特に効果が高く、導入もしやすい「レンタルビジネス化」について詳しくご紹介します。
レンタルビジネス化を導入すると、お客様に自然と再来店いただける状況を生み出せるだけでなく、コスト面でも比較的低リスクで始められる特徴があります。
売上を安定させたいと考える中小企業にとって、有用なヒントになるはずです。
構造的リピートとは？
まずは「構造的リピート」の概念を整理しましょう。
構造的リピートとは、ビジネスの仕組みそのものを工夫して、意図せずともお客様がリピートせざるを得ない状況をつくり出す戦略のことです。
単に「次回来店時に割引が受けられるクーポンを配布する」ような施策とは異なり、「必ず再来店が必要になる仕組み」を提供し、お客様が自然とお店を選び続ける状態を実現させます。
たとえば以下のような例が、構造的リピートの代表的な形です。
- 定期契約型：学習塾の月謝制やスポーツクラブの月会費など、契約期間中は定期的に利用してもらえる仕組み。
- レンタルビジネス化（今回紹介するモデル）：店舗側が販売している商品をレンタル化することによって、リピート化させる仕組み。
このように、割引やポイントカードなどの一時的な促進施策とは異なり、ビジネスモデルの設計段階で「必ずリピートにつながる仕組み」を組み込んでおくのが、構造的リピートの最も大きな特徴です。
「構造的リピート」について詳しく知りたい方は、たった3つのポイントで売上が安定する！「構造的リピート」という考え方で基本的な考え方を解説していますので、ぜひご覧ください。
レンタルビジネス化とは？
まず、レンタルビジネス化の定義から見ていきましょう。
これは、これまで販売形式で提供してきた商品やサービスを「レンタル」という形で貸し出すビジネスモデルに転換することを指します。
販売に比べると一度の収益は小さく感じられるかもしれませんが、継続して利用してもらえる仕組みが整えば、毎月または定期的に収益が積み上がっていくという特徴があります。
この背景には、消費者が「所有すること」に価値を見出すよりも、「必要なときだけ使用できれば十分」と考える傾向が強まってきたことが挙げられます。
ファッション業界では衣類のレンタル、外食産業では店舗の時間貸しなど、様々な商品・サービスがレンタルやシェアの形で提供されるようになっています。
なぜレンタルビジネス化が注目されるのか？
レンタルビジネス化は、いまなぜ多くの企業から注目されているのでしょうか。
その鍵となるのが、「スポットニーズ」を取り込むことにあります。
消費者の中には以下のような悩みや要望を持つ人が少なくありません。
- 「欲しいけれど、そこまで頻繁には使わない」
- 「長期的に必要かどうか分からない」
- 「買うには値段が高くて、手を出しにくい」
こうした状況であれば、購入のハードルが高くても、レンタルであれば気軽に利用してもらいやすくなります。
しかも「思ったよりも良かった」「使い勝手がよかった」という経験を通じて、顧客がリピートする可能性も高まるのです。
企業側にとっては、一度きりの取引で終わるのではなく、継続的な取引関係を構築できるメリットがあります。
また、「試しに使いたい」という顧客の心理を取り込みやすいのもレンタルビジネスの強みです。
レンタルビジネス化の具体的な導入事例
ここからは、既に実践されているレンタルビジネスを具体的に見ていきましょう。
身近なところからユニークなものまで、さまざまなジャンルで導入が進んでいます。
オフィス環境向け：熱帯魚の水槽レンタル
オフィスの雰囲気づくりや来客時のおもてなしとして、受付や会議室などに熱帯魚の水槽を設置する企業が増えています。
しかし、水槽や設備の購入・維持管理には専門知識と手間がかかるものです。
そこで登場したのが、水槽と魚、さらにはメンテナンスサービスまでをセットにしたレンタルサービスです。
利用者としては、水槽を所有するよりもハードルが下がり、気軽に導入できます。
一方でサービス提供者側は、定期的なメンテナンス費用や月額料金を収益源として、顧客との継続的な関係を築けるのがメリットです。
飲食業界向け：ランチタイム限定の店舗レンタル
飲食店には、ディナータイムのみ営業している店舗も多く存在します。
昼間は遊休状態の厨房やホールを有効活用するために、ランチタイムだけ別の事業者や個人に店舗を貸し出すサービスが注目を集めています。
店舗オーナー側は、普段使われていない時間帯に追加収益を得られますし、レンタルする側としては、物件契約や初期設備投資のハードルを大幅に下げられるのが大きな魅力です。
ファッション分野：エアークローゼット
ファッション業界でもレンタル化の波は広がっています。
その代表例が、プロのスタイリストが選んだ衣類を定期的にレンタルできる「エアークローゼット」のようなサービスです。
購入してクローゼットにため込むよりも、必要なときだけ、もしくは定期的に新しい服を借りて楽しむほうが合理的と考える人々が増えているのです。
ファッションは流行のサイクルが短いため、常に新しいスタイルを取り入れたいというニーズにも応えられます。
また、借りてみて気に入った服はそのまま購入できるオプションを提供するなど、顧客体験を向上させる工夫も行われています。
イベント・セレモニー向け：レンタル家族
冠婚葬祭や行事で人手が必要な場合、「レンタル家族」というサービスも存在します。
必要な人手やフォーマルな場面でのサポートを一時的に提供してくれる仕組みで、家族・親族が少ないケースや、短期間だけ周囲をサポートしてほしい場合などに活用されます。
こうした特殊なサービスも、利用者の「買うには至らないが、一時的に必要」というレンタルニーズを巧みに取り込んでいる例といえるでしょう。
レンタルビジネス化導入のポイントと注意点
実際に自社でレンタルビジネスを導入しようと考えたとき、どのような商品・サービスが向いているのか、そしてどんなリスクに備えるべきなのかを確認しておく必要があります。
成功しやすい商品・サービスの特徴
レンタルビジネスとして成立しやすい商品・サービスには、以下のような特徴があります。
- 高単価商品
価格が高い商品は、購入のハードルが非常に高いため、レンタル需要が発生しやすくなります。高級時計や高級カメラ、専門性の高い設備などが典型例です。 - バリエーション豊富な商品
全種類を揃えるのは現実的に難しい商品群は、レンタルの魅力が増します。ファッションアイテムや楽器、アウトドア用品などが該当します。 - 使用頻度の低い商品
年間の使用日数が少ない商品ほど、購入よりも「必要なときだけ借りる」ほうが利用者にとって負担が少なくなります。シーズンもののスポーツ用品やイベント用の機材などが代表的です。 - 保管が課題となる商品
かさばる大型の道具やデリケートな管理を要する商品は、保管スペースや維持コストがかかります。したがって、必要時に借りるレンタルの需要が高まります。
上記の特徴を踏まえて、自社の商品・サービスが「所有するよりもレンタルのほうがメリットが大きいか」を検討してみると、導入の可否が見えてきます。
リスク管理のポイント
レンタルビジネスで特に注意が必要なのは、貸し倒れや商品の破損・紛失といったリスクです。対策としては以下が挙げられます。
- クレジットカード決済の導入
現金払いよりも貸し倒れリスクを軽減できるだけでなく、本人確認の一助にもなります。 - 適切なデポジット金額の設定
商品の価値や貸し出し期間によって保証金を設定することで、万が一の損害リスクに備えます。 - 確実な本人確認システムの構築
身分証の提示や免許証情報の登録など、顧客の身元を明確にする仕組みが必要です。
さらに、貸し出し商品やサービスのメンテナンス費用、在庫管理コストなども考慮に入れて、料金設定を行いましょう。
レンタルは貸し出し回数を重ねるほど商品が劣化する可能性もあり、その修理や交換サイクルを踏まえた収益計算が欠かせません。
成功のためのアドバイス
レンタルビジネス化を実践するにあたっては、以下のステップを踏むとスムーズです。
- 商品・サービスの使用頻度分析
自社で扱う商品の使用頻度データを取り、どれくらいの頻度で顧客が利用しているのかを確認します。使用頻度が低いほど、レンタルに向く可能性が高くなります。 - 顧客の保有コスト試算
購入した場合の保管コストやメンテナンス費、買い換えサイクルなどを試算し、レンタルと比較することで、利用者への訴求点を明確にしましょう。 - レンタル需要の市場調査
同業他社が類似のレンタルサービスを行っていないか、あるいは近しい分野で成功している事例がないかなど、市場のニーズや競合状況を把握します。 - 適切な料金体系の設計
レンタル料金は高すぎると利用者が敬遠し、安すぎると利益率が低下します。保証金設定や貸し出し期間、メンテナンスコストなどをしっかり見積もったうえで設計を行うことが大切です。
これらのプロセスを踏むことで、思いつきや流行だけではない、本質的に顧客ニーズを取り込めるレンタルビジネスを立ち上げやすくなります。
まとめ
レンタルビジネス化は「構造的リピート」を実現する上で非常に有効な手段です。
高額な商品や使用頻度の低い商品は、所有よりも必要なときだけ利用するほうが合理的と感じる顧客ニーズを捉えやすく、安定した収益源を築きやすいでしょう。
実際、オフィス向けの水槽レンタルや飲食店舗の時間貸し、ファッションアイテムの定額レンタル、さらにはレンタル家族のような特殊サービスまで、多様な成功事例が生まれています。
しかしながら、レンタルビジネスには貸し倒れや商品の破損、在庫管理の複雑化など特有のリスクも存在します。
クレジットカード決済やデポジットの設定、厳重な本人確認などの仕組みを整備し、リスク対策を十分に講じてからスタートすることが重要です。
導入を検討する際には、まず小規模でテストマーケティングを行い、顧客の反応や運営上の課題を洗い出すところから始めるとよいでしょう。
試験的に運用して成功の手応えを感じられたら徐々に拡大し、より大きな事業モデルへと育てていくことをおすすめします。
時代の価値観の変化に対応し、長期的なビジネスの安定と成長を目指すのであれば、レンタルビジネス化は大いに検討する価値がある施策です。
新たなチャンスをつかむためにも、ぜひ自社の商品やサービスに合った形のレンタル化を探り、構造的リピートを実現する一歩を踏み出してみてください。
