税務調査での交際費否認を防ぐ – 社内行事の福利厚生費判断の実務

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

「忘年会は交際費?福利厚生費?」「課の飲み会の経費処理はどうすべき?」

経営者の皆様は、こうした社内行事の経費処理に頭を悩ませたことがあるのではないでしょうか。

特に税務調査では、社内行事の費用処理が重点的にチェックされる項目の一つとなっています。

中小企業の場合、交際費は年800万円まで損金算入が認められていますが、それを超える部分は損金不算入となります。

一方、福利厚生費は全額損金算入が可能なため、調査官は社内行事の費用が適切に区分されているか、注意深く確認する傾向があります。

このような指摘が多い理由は、税務調査官が交際費の範囲を広く捉える傾向があるためです。

本記事では、社内行事の費用が税務調査で狙われやすい理由と、その対策について詳しく解説します。

福利厚生費として認められる3つの要件

税務調査で福利厚生費として認められるためには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 特定の従業員だけではなく、原則として全員が参加できること
  2. 1人当たりの金額が社会通念上、適正な範囲内であること
  3. 単なる遊興や娯楽を目的としたものではないこと

これらの要件のいずれかでも満たさない場合、税務調査で交際費として否認される可能性が高くなります。

部署単位の社内行事における重要ポイント

「全員参加」の要件については、必ずしも全社員が一堂に会する必要はありません。

以下のような開催でも、適切な証拠書類があれば福利厚生費として認められます。

  • 支店・工場ごとの開催
  • 部署・課単位での開催
  • プロジェクトチーム単位での開催

ここで重要なのは、「その単位における参加希望者が全員参加できる状況であること」を示す証拠を残すことです。

就業時間との関係による判断の違い

社内行事の開催時間と目的は、税務調査での重要な判断材料となります。

プロジェクトや納期終了後の打ち上げなどは、一見すると交際費と判断されそうですが、残業の延長線上での食事会として行われる場合は異なります。

特定の部署や社員のみが参加する場合でも、残業程度の時間帯と場所であれば、福利厚生費として認められる余地があります。

また、経営陣が各支店や部署を訪問する際の懇親会についても、開催時間が判断のポイントとなります。

就業時間内に開催され、経営方針の共有や表彰などが主な目的である場合は、会議費として処理できる可能性があります。

ただし、純粋な懇親が主目的であれば、交際費として処理する必要があります。

金額基準の実務判断

社内行事の金額について、税務上の明確な基準は示されていません。

しかし、国税庁のタックスアンサーや判例から、実務的な判断基準を見出すことができます。

社員旅行の場合:

  • 4泊5日程度の旅行であれば、1人当たり15万円以内
  • ただしこれは旅行期間を考慮した金額であり
  • 単純に日帰りの社内行事に当てはめることはできません (参考:国税庁タックスアンサー No.2603「従業員レクリエーション旅行や研修旅行」)

宴会や日帰り行事の場合:

  • 1人当たり3万円程度が目安となります
  • ただしこれも絶対的な基準ではなく
  • 行事の目的や規模などを総合的に判断する必要があります

交際費否認への具体的な反論方法

全従業員参加の「感謝の集い」にかかる費用が福利厚生費として認められるか争われた判例があります。

1人当たり2.2~2.8万円という金額設定について、裁判所は以下の判断を示しました。

  • 宴会と日帰り旅行を比較することは合理的という判断
  • 金額の妥当性は目的や規模を総合的に判断
  • 参加対象者を特定の従業員に限定していないことを重視
  • 社内行事としての目的や必要性が認められること (参考:福岡地裁平成29年4月25日判決)

また、税務調査で交際費否認を受けた場合、「萬有製薬事件」で示された三要件説を反論の根拠として活用できます。

この判例によれば、交際費に該当するためには以下の3つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 支出の相手方が事業に関係のある者等であること
  2. 支出の目的が事業関係者等との親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図ることであること
  3. 行為の形態が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること

税務調査対策として必要な証拠書類

福利厚生費として処理した社内行事について、以下の証拠書類を適切に保管しておくことが重要です。

  1. 開催通知や案内文書
    • 参加対象者の範囲が明確に分かるもの
    • 業務上の目的が記載されているもの
  2. 参加者名簿
    • 実際の参加者と欠席者の記録
    • 欠席理由の記録(可能な範囲で)
  3. 開催時間の記録
    • 開始・終了時刻
    • 就業時間との関係性
  4. 支出の内訳
    • 1人当たりの金額計算
    • 参加者負担額がある場合はその内訳

まとめ

社内行事の費用処理で税務調査の指摘を避けるためには、福利厚生費の要件を満たすことはもちろん、それを証明できる書類の整備が不可欠です。

特に、参加者の範囲、開催時間、金額の妥当性について、明確な根拠を示せる記録を残しておくことが重要です。

また、税務調査での指摘に対しては、判例を踏まえた論理的な反論ができるよう準備しておくことも大切です。

適切な記録と証拠の保管、そして判例に基づく理論的な説明ができれば、社内行事の費用を福利厚生費として認めてもらえる可能性は十分にあります。

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