なぜ税務調査で商品券が狙われるのか?経営者のための防衛策

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

中小企業の経営者にとって、取引先との良好な関係を維持することはビジネスを成功に導く上で非常に重要です。

しかし、そのために用いられる商品券による謝礼やリベートが、税務調査の対象となりやすいという事実はあまり知られていません。

税務調査で商品券が取り上げられてしまうと、社長個人の使用や経費としての妥当性などを厳しく疑われる可能性が高く、さらに取引先に対する反面調査に発展するリスクも否定できません。

本記事では、税理士の視点と中小企業経営者の立場から、商品券に関する税務調査のリスクを最小限に抑えるための実務的な対策を解説します。

なぜ商品券が税務調査で注目されるのか

商品券は、取引先や顧客に対する謝礼やリベートとして広く利用される一方、現金同等物に近い扱いを受けることが多いため、税務上のリスクを伴います。

とくに税務調査で問題視されやすいのは以下のような点です。

  • 個人的な使用である疑い
    社長が個人的に使用しているのではないか、と調査官が疑うケースが挙げられます。
    帳簿や領収書に「取引先に渡した」と書いてあっても、それが実際に取引先へ渡った証拠としては弱いと見なされる可能性があります。
  • 反面調査のリスク
    税務署は、商品券が本当に取引先に渡ったのかどうかを確認するために、取引先に直接調査を行う「反面調査」に踏み切ることがあります。
    反面調査を実施されると、取引先側で未申告の所得として取り扱われるなど、思わぬトラブルを引き起こす要因となりかねません。

こうしたリスクを認識しておかなければ、税務調査の際に「なぜ商品券を使ったのか」「本当に取引先に配られたのか」といった質問に対して明確な証拠を示せず、大きな税務リスクを背負うことになります。

反面調査による実務上の影響

前述のとおり、税務調査で商品券が注目されると「反面調査」が行われる可能性があります。

反面調査は、税務署が商品券を受け取ったとされる取引先に直接出向いて事実関係を確認する手法です。

この反面調査が行われると、以下のような問題が生じるリスクがあります。

  • 取引先の個人に対する未申告問題
    取引先の社員や担当者が商品券を受け取っていたとしても、個人の所得として申告していない場合、所得隠しとみなされる恐れがあります。
    少額(年末調整で課税関係が完結する程度)であれば大きな問題になりにくいものの、受取金額が大きいほどリスクが高まります。
  • 取引先との関係悪化
    反面調査は、言い方を変えれば「あなたの会社が商品券を受け取った形跡があるので調査します」という通知が取引先に届くことを意味します。
    取引先としては面倒な手続きを強いられるだけでなく、「貴社との取引のために余計な手間をかけさせられた」という不信感を抱く可能性もあります。
    結果的に取引の継続に支障をきたす恐れすら否定できません。

中小企業の経営者としては、こうした事態を回避するためにも、税務調査で指摘される可能性がある支出については、あらかじめ適切な備えをしておくことが重要です。

一般的にとられる対応策とその限界

商品券などを実際に取引先に渡したという証拠が明確に残せるのであれば、税務調査で疑われにくいのは言うまでもありません。

たとえば、配送記録や受領証をきちんと保管しておけば証拠能力が高まり、税務調査でも正当性を主張しやすくなります。

しかし、手渡しで渡す場合はどうしても証明が難しく、税務署から「本当に取引先に渡ったのか?」と疑いを持たれがちです。

こうしたケースに備えるために、よく検討されるのが「商品券を交際費ではなく役員賞与として処理する」という方法です。

つまり、「実は社長が個人的に使用するものだった」という形にしてしまうことで、調査官がわざわざ反面調査に出向く動機をなくすわけです。

しかし、この方法には明確な欠点があります。役員賞与として計上すると、源泉所得税や住民税などの個人側の税負担が増えてしまいます。

金額によっては相当高額な負担になる恐れがあるため、安易に選択しづらいのが現実です。

効果的な対策:役員報酬を活用した方法

手渡しや配送など証拠を確保しにくい状況が続く中で、より実務的かつ現実的なアプローチとして注目される方法があります。

それが「役員報酬を計画的に増額し、その増額分の手取りから商品券を購入する」という方法です。

これにより、「法人の帳簿に商品券の購入費用が計上されない」状態を作ることができ、税務調査で商品券の存在自体が争点になりにくくなります。

具体的には次の手順を踏みます。

  • 役員報酬を事前に増額する
    商品券に使う分を見越して、あらかじめ年間ベースで役員報酬を増額します。
    例えば、年間で100万円分の商品券が必要なら、役員報酬を100万円上乗せするといったイメージです。
  • 役員報酬の増額分は法人の損金となる
    増額した役員報酬は法人にとって給与費用なので、法人税の計算上は損金に算入されます。
    ただし、役員賞与として臨時的に支給するときと異なり、あらかじめ報酬として計画的に設定することがポイントです。
  • 実際に商品券を購入するのは役員個人
    増額した報酬のうち、個人の手取り部分を用いて商品券を購入します。
    これにより、法人の帳簿には「商品券を購入した」という事実が残らず、税務調査で法人側が疑われるリスクを低減できます。

この仕組みによって、仮に税務調査が入っても、調査官が「どこに商品券が流れたのか」を追求する材料を得にくくなるのです。

この方法のメリット・デメリット

役員報酬を活用した方法には、いくつかのメリットとデメリットが存在します。

導入を検討する際には、以下の点を十分に理解し、自社の状況に合わせて判断することが重要です。

  • メリット
    • 税務調査で「反面調査」のリスクを大幅に回避できる
      そもそも法人が商品券を購入していないので、取引先に対する支払いの事実関係を疑われにくくなります。
    • 取引先との関係を守りやすい
      調査官が取引先に問い合わせる必要がなくなるため、余計な不信感を抱かれるリスクを減らせます。
    • 法人税の負担軽減につながる場合もある
      増額した役員報酬は法人の損金になるため、法人税の計算上は費用として認められます。
  • デメリット
    • 商品券代が全額損金になるわけではない
      あくまで個人が商品券を買う形となるため、法人が経費として認められる範囲は「役員報酬」部分だけです。
    • 役員個人の所得税・住民税負担が増える
      場合によっては、増えた手取りを通じて商品券を購入しなければならないため、個人としての税負担は上昇します。
    • 計画的な役員報酬設定が必要
      毎年定められた時期に報酬を固定または見直すなど、事前にきちんと設計しなければ不自然な役員賞与とみなされるリスクもあります。

税務調査における基本的な心構え

商品券に限らず、税務調査の場面では以下の姿勢を持つことが非常に大切です。

ここでも箇条書きの前に少し解説しますが、「とにかく指摘を受けないように備える」という点が根本にあります。

  • 指摘を受けないよう、証拠や書類を整備する
    商品券を手渡しする場合に限らず、取引に関する契約書や領収書などの保管は必須です。
    調査官から「この支出は何のためなのか」と聞かれたときに、すぐに根拠書類を提示できれば、余計な疑いを持たれることも少なくなります。
  • 曖昧な処理はしない
    グレーな部分がある場合は専門家(税理士など)に相談し、処理方法を明確化しておくと安心です。
    曖昧さが残ると、その分調査官が疑いを深める要因となります。
  • 専門家との連携を惜しまない
    税務知識が十分でない場合は、早めに税理士などの専門家と連携しておくのが得策です。
    事前にリスクを把握していれば、調査時にも落ち着いて対応できるでしょう。

税務調査はビジネスの継続において不可避ともいえる存在ですが、事前に適切な備えがあれば、調査官の指摘を最小限に抑えることは可能です。

まとめ:戦略的アプローチで税務リスクを回避する

商品券は、取引先への謝礼やリベートとして便利な反面、現金同等物として税務調査で疑われやすい性質を持っています。

そのため、取引先に商品券を渡したという事実を証明できない場合や、法人の支出として計上している場合には、反面調査や追加課税といったリスクが高まります。

そこで、以下のポイントを改めて意識することが大切です。

  • 商品券を渡した事実を証明できる書類(配送記録や受領証など)がある場合は、確実に保管しておく
  • 商品券の使用頻度や金額が大きい場合は、役員報酬を活用した方法を検討し、商品券代を個人の手取りから支払うことで法人帳簿に痕跡を残さない
  • 税務リスクを十分に検討した上で、交際費処理や役員賞与処理も含め、最適な方法を選択する
  • 税理士などの専門家に相談し、グレーゾーンを可能な限り排除する

こうした戦略的アプローチをとることで、商品券をめぐる税務リスクと、取引先との関係維持の両立が可能になります。

税務調査は企業規模に関わらず、いずれ訪れる可能性があります。

だからこそ、今のうちに「どのように商品券を扱うべきか」を社内ルールとして整理し、調査時に不要な混乱を招かないようにしておきましょう。

十分な事前準備と正しい知識があれば、万が一税務調査で指摘された場合でも、適切な証拠を提示することでスムーズに切り抜けられます。

商品券を含む現金同等物の取り扱いはとくに慎重を要しますので、今回ご紹介したポイントを踏まえて、社内体制を改めて点検してみてください。

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