税務調査の対象期間、3年で終わるケース・7年まで延びるケース

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。

毎週月曜日に、経営者なら知っておきたい「税務調査」についての知識を解説しています。

税務調査と聞くと、多くの方が「どのような準備をすればいいのか」「どこまで過去を遡って調べられるのか」といった不安を抱くのではないでしょうか。

特に「何年分の資料を用意する必要があるのか」がわからないと、想定外の負担や精神的なストレスにつながることもあります。

税務調査は頻繁に経験するものではありませんので、いざ調査が行われる際には、しっかりと準備しておくことが極めて大切です。

過去の申告内容を見直し、必要な証憑をすぐに提示できるようにしておけば、調査対応に追われることなく通常業務を続けられる可能性が高まります。

本記事では、「税務調査の対象期間」を中心に、法的な根拠や実務上の取り扱い、そして経営者として心がけるべきポイントをまとめて解説します。

対象期間を理解することで、無用な混乱を防ぎ、万が一調査が入った際にも落ち着いて対応できるはずです。

なぜ対象期間を理解する必要があるのか

税務調査の対象期間を把握することは、経営者にとって以下のような意義があります。

  • 心理的な安心感を得られる
    どこまで遡って調査されるのかを把握していないと、「もし10年もさかのぼって調査されたらどうしよう」といった不安が膨らみがちです。対象期間の基本ルールを知っておけば、漠然とした心配から解放され、落ち着いて日々の業務に取り組めるようになります。
  • 必要書類の保管期間を明確にできる
    適切に経理資料や証憑を保管しておくことで、調査時に素早く書類を提示できます。何年分を目安に手元に置いておくべきかがわかれば、保管コストや手間も最適化できるでしょう。
  • 自社のリスクポイントを再確認できる
    過去の申告内容を客観的に見直すよいきっかけになります。万が一、特定の取引や経理処理に誤りや不備がある場合は、税務調査が行われる前に修正申告や再確認をしておくことも可能です。

このように、対象期間を理解することは“攻めの経営”にもつながる重要な要素です。では、実際に税務調査の対象期間はどのような仕組みで決まっているのでしょうか。

税務調査の対象期間とは

基本的な仕組みと考え方

結論から言えば、税務調査の対象期間を直接定めた「税務調査専用の法律」は存在しません。

では、税務署は何を根拠に過去の申告内容を調べるのでしょうか。

答えは「更正・決定など賦課権の除斥期間」と呼ばれる仕組みと連動しているためです。

税務調査は、申告内容に誤りがないかどうかを確認し、必要に応じて修正を行う(更正・決定を行う)ために実施されます。

そして、この更正や決定を行える期間が、そのまま税務調査の対象期間の上限になるわけです。

「更正」と「決定」の違い

  • 更正
    すでに提出された申告書の内容が誤っている場合、税務署が正しい税額に修正する手続きです。たとえば、売上金額や必要経費の計上額が過小・過大であるといったケースで適用されます。
  • 決定
    申告がされていない場合、あるいは申告書自体が存在しない場合に、税務署が税額を「決定」して課税する手続きです。無申告のままでいたり、そもそも納税義務があることを放置していたりするケースに適用されます。

これらの手続きができる“期限”が除斥期間であり、これに沿って実際の調査期間も設定されるというわけです。

原則的な対象期間は5年

法律上は5年前までさかのぼれる

国税通則法第70条第1項によると、原則的な賦課権の除斥期間は「5年」と定められています。

これがいわゆる「5年ルール」と呼ばれ、税務署は過去5年以内であれば、更正や決定などの処分を行い、追加の税金を課すことができる仕組みになっています。

しかし、「5年前まで必ず遡る」というわけではありません。あくまで法律上の上限が5年という意味合いであり、実務上はもっと短い期間で調査が行われることも多々あります。

実務では3年が多い理由

一方、現場の税務調査では「まず3年分を重点的に調べる」という運用が広く行われています。

これは調査件数を確保しつつ、短期間で効率よく不備や不正を発見するための戦略的な側面が大きいと考えられます。

  • 調査件数の確保
    税務調査を担当する職員の数や時間は限られています。5年分をすべて詳しく調べるよりも、まずは3年分をしっかりと確認し、不正や重大なミスがあれば追加で期間を広げる、という段階的な方法が効率的です。
  • 必要に応じて期間延長ができる柔軟性
    3年分の調査中に大きな問題や意図的な不正の兆候が見つかった場合、後から4年目・5年目も調べるという流れを組むことができます。最初から5年分をフルで見る必要はなく、ある程度見通しを立てながら段階的に拡大していくというやり方が、多くの税務署で採用されているのです。

特別な場合の対象期間

6年や7年が適用されるケース

通常の所得税や法人税、消費税などでは5年を上限とするケースが一般的ですが、例外的にそれを超える調査が認められる税目や状況があります。

  1. 贈与税:6年
    相続税法36条第1項によって定められた賦課権の除斥期間は6年です。相続税や贈与税については、財産のやり取りに関する確認が必要なため、他の税目より長めの期間が設けられています。
  2. 移転価格税制に係る法人税:7年
    令和2年4月1日以降に開始した事業年度については、海外関連会社との取引を対象とする移転価格税制に関して7年の除斥期間が設定されています。国際取引は確認すべき事項が多岐にわたるため、追加で時間がかかるという点が考慮されています。
  3. 脱税(偽りその他不正の行為)がある場合:7年
    悪質な手段による不正な納税逃れが認定される場合も、調査対象期間は7年に延びます。単なる申告ミスではなく、意図的かつ組織的に税金を免れようとする行為に対しては、より厳しく対処するための規定です。

脱税の場合の7年ルール

「偽りその他不正の行為」の要件と解釈

法律上、「脱税」とは単に税金を少なく申告しただけでなく、「偽りその他不正の行為」をもって意図的に税を免れる(または不当な還付を受ける)ことを指します。

たとえば、以下のようなケースが典型的に挙げられます。

  • 仮名・借名口座を使用した売上金の管理
    自社や個人名義以外の口座を利用し、売上や利益を隠す悪質な行為。
  • 二重帳簿や帳簿の改ざん
    調査をかいくぐるために虚偽の帳簿を作成する、または元の帳簿を意図的に書き換えるような工作が含まれます。

これらは、明確に「税金を隠す目的」で行われるため、悪質と判断されれば除斥期間は7年まで延長されます。

逆に言えば、単なる仕訳ミスや不注意による記載漏れがただちに「脱税」扱いされるわけではありません。

調査対象期間が延長されるケース

4年以上さかのぼる可能性がある具体例

前述のとおり、実務上まず3年分を対象に調査を行い、問題点が見つかった場合にさらに過去へと遡るパターンが多くみられます。

具体的には、次のような状況で4年目以降に広がる可能性があります。

  • 3年間の各年度で同じ誤りが繰り返し見つかる
    例えば3年連続で同じ仕訳ミスをしていた場合、「さらに過去に同様の誤りがあったのではないか」と疑われ、調査官が追加確認を実施することがあります。
  • 特定の取引先との間で継続的な不自然取引が判明
    不正請求書や水増し請求など、怪しい取引が複数年にわたって繰り返されている場合も、4年目・5年目への調査拡大が起こりやすいです。

こうしたケースでは、調査官としても「過去の他の年に同様の誤りや不正がある」と考えるだけの合理的理由があるため、追加の確認に踏み切るのは自然な流れと言えます。

延長されない可能性が高いケース

一方で、以下のような事情があると追加期間まで調べられず、3年分の確認で終了となることが少なくありません。

  • 単発の売上計上漏れ
    ある年度に限って発生した計上漏れで、他の年度では同じ誤りが見つからない場合は、それ以上遡る理由が薄いと判断されるでしょう。
  • 否認事項がそもそも存在しない
    調査の結果、大きな問題が見つからなければ、税務署としても延長調査の手間をかけるメリットは乏しく、3年分だけで終了するのが一般的です。

もっとも、実際には調査官の判断や、法人の業種・規模・経理体制などによって対応が変わる可能性があります。

そのため、「絶対に延長されない」という保証はありませんが、こうした例に当てはまる場合は、延長リスクが比較的低いと言えます。

まとめ

税務調査の対象期間は、原則5年という法律上の除斥期間をベースに、実務上はまず3年分を中心に進められるケースが多いのが現状です。

しかしながら、贈与税や移転価格税制、脱税行為が疑われる場合には6年・7年へと延長されることがあるため、最終的な対象期間は必ずしも一律ではありません。

さらに、調査の過程で過去数年にわたり同様の不正や誤りが見つかった場合は、3年から5年へ、場合によっては7年までさかのぼって確認される可能性もあります。

こうしたリスクを踏まえ、経営者や実務担当者が常に気をつけるべきポイントを挙げてみましょう。

  • 日々の帳簿や証憑を正確に保管し、定期的に見直す
    誤りや不備を事前に発見して修正できれば、調査で延長されるリスクを大きく減らせます。
  • 不透明な取引や仮名・借名口座の利用を行わない
    脱税認定のリスクが高まり、7年調査にまで発展する可能性があります。
  • 専門家のサポートを活用する
    税理士や会計士など第三者のチェックを受けることで、思わぬミスを早期に発見しやすくなります。

これらのポイントを押さえておけば、税務調査の通知を受けても慌てることなく、必要な資料を提示しながらスムーズに対応することが可能です。

調査はあくまで「申告内容に問題がないかを確認するための手続き」であり、きちんとした管理と適切な申告を行っていれば、恐れる必要はありません

税務調査の対象期間に対する理解は、会社経営や事業運営において大きな安心材料となります。

ぜひ本記事を参考に、日頃からの帳簿管理や書類整理、そして経理体制の見直しを進めていただければと思います。

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