銀行格付けの真実:企業の実力を測る定性評価の実態

皆さんこんにちは。クラウド会計で経営支援を提供する千葉の税理士、中川祐輔です。
毎週金曜日に、経営者なら知っておきたい「銀行融資」についての知識を解説しています。
「うちの会社の強みは、決算書の数字だけでは表せない」といった声を、経営者の方からよく耳にします。
実は銀行もそのことを理解しているため、決算書に基づく“定量評価”だけでなく、企業の実力を総合的に判断するための“定性評価”を取り入れています。
しかし、実際に銀行がどのように定性評価を行っているかは、多くの方にとってわかりづらい部分ではないでしょうか。
そこで本記事では、定性評価がなぜ重要なのか、また金融機関によって定性評価の重みがなぜ異なるのかを解説します。
さらに、定性評価の具体的な項目を踏まえて、自社の評価を高めるためにどのような取り組みができるのか、そのポイントを詳しくお伝えします。
定性評価とは何か? 〜数字に表れない強みを評価する仕組み〜
まず、定性評価の位置づけを整理してみましょう。銀行が行う企業評価には大きく二つの軸があります。
一つは「決算書の数字」を用いた定量評価、もう一つは「経営者の資質や事業の将来性」などを加味した定性評価です。
決算書の数字はもちろん重要ですが、そこからは読み取れない企業の価値や強みも多々あります。
特に中小企業の場合、経営者のリーダーシップや社員の技術力など、目に見えにくい要素が会社の成長や安定に大きな影響を及ぼします。
こうした“数字に映らない要素”を評価できるよう、銀行は定性評価という仕組みを整えているのです。
なぜ定性評価が必要なのか
ここでは、数字だけでは測りづらい企業の実力をどのように理解していくのか、その背景を見ていきましょう。
「決算書の数字だけでは、本当にその会社の強みを見極められるのか?」
これは銀行に限らず、多くの投資家やビジネスパートナーが共通して抱える疑問です。
なぜなら、企業が持つ固有の技術力や顧客基盤、従業員のスキルなどは、数字以外の定性的な要素で評価されることが多いからです。
1. 数字に表れない企業の特徴
定量評価では測りきれない、具体的な例としては以下のようなものが挙げられます。
これらの例を挙げると、定性評価の必要性がイメージしやすくなります。
企業の実力を示すポイントとしては、たとえば次のような特徴があります。
- 優秀な技術者を抱える製造業
- 独自の加工技術
- 業界での高い評価
- 技術継承の仕組み
- 強固な顧客基盤を持つ小売業
- 固定客の比率の高さ
- リピート率の高さ
- 顧客との信頼関係
- 独自の販売網を持つサービス業
- 競合との差別化要因
- 参入障壁の高さ
- 営業力の強さ
このように、技術・顧客基盤・販売網など、企業が築き上げてきた目に見えにくい資産は、将来の利益を生み出す重要な要素です。
特に中小企業の場合、経営者自身の手腕や従業員の持つ技術力が、そのまま企業の成長を左右するケースが多くあります。
したがって数字だけでは不十分であり、定性評価によってこれらの強みを見逃さないようにするのです。
金融機関による定性評価の違い 〜ビジネスモデルや地域性で大きく変化〜
次に、銀行をはじめとする金融機関がどのように定性評価を位置づけているのか、その違いを見てみましょう。
実は、この定性評価への力の入れ方は金融機関ごとに大きく異なります。それは各金融機関のビジネスモデルや顧客層、営業地域の特性を反映しているからです。
企業にとっては、メインバンクをどこにするのかを考える際に、この定性評価の重みづけの違いは非常に重要な判断材料となります。
1. メガバンク:ほぼ実施せず
メガバンクは「効率重視」の姿勢が非常に強いです。
膨大な取引先を抱えているメガバンクでは、一社一社を個別に評価する余裕がないため、システムによる画一的な審査をベースとする傾向があります。
その結果、定量評価(決算書の数字)に重点が置かれ、定性評価は例外的に大口取引先のみ行われるというのが実情です。
- 取引先が多すぎて個別対応が困難
- システムによる自動評価が中心
- 決算書の数字を最優先で審査
- 大口取引先のみ定性評価を実施
2. 地方銀行:評価全体の約10%
地方銀行は「効率と関係性のバランス」を重視します。
地域の中核企業との取引が多いため、メガバンクほど決算書の数字一辺倒というわけではなく、ある程度は現場に足を運んでの個別評価も行われます。
ただし、定性評価が全体に占める割合はおおむね10%ほどであり、あくまで補完的な位置づけです。
- 地域密着型の営業展開
- 継続的な関係を重視する風土
- 定量評価を軸としながらも、必要に応じて定性評価を追加
- 評価全体に占める定性評価は約10%
3. 信用金庫:評価全体の約20%
信用金庫は、さらに「顔の見える関係」を重視します。
地域の中小企業と密接な付き合いをしていることが多いので、訪問頻度も高く、経営者とダイレクトに話をしながら事業の強みや課題を把握していきます。
そのため、定性評価の重みは全体の約20%と、地方銀行よりも高めになるケースが一般的です。
- 地域の中小企業との強い繋がり
- 経営者との直接的なコミュニケーションを重視
- 現場重視の審査姿勢
- 評価全体に占める定性評価は約20%
このように金融機関ごとに力点が異なるため、「うちは数字だけで評価してほしくないのに…」と考える場合には、自社の事情に応じてメインバンクや取引金融機関を選び分けることも重要な戦略となります。
定性評価の具体的な評価項目
では、銀行は定性評価で具体的に何を見ているのでしょうか。
「銀行はどこを見て評価しているのかわからない」という経営者の声をよく耳にしますが、定性評価は大きく次の4つの視点で行われるのが一般的です。
ここでは、それぞれの視点について詳しく解説します。
1. 経営者の資質
まず最初に重視されるのが「経営者の資質」です。
よく「会社の実力は経営者の実力を映す鏡」といわれるほど、経営トップのリーダーシップやビジョンは企業全体の方向性を左右する要素とみなされます。
たとえば、次のようなポイントが評価されます。
- 経営に対する考え方
- 経営理念の明確さ
- 将来ビジョンの具体性
- 数字に対する理解度
- 業界での経験・実績
- 経験年数や経営の実績
- 過去の危機対応の事例
- 業界内での評価
- 後継者の有無と育成状況
- 承継計画があるかどうか
- 後継者の能力・実績
- 社内の信頼度
特に「自社の強みと弱みを正確に理解し、具体的な改善策を持っているかどうか」は、銀行員から高く評価されるポイントです。
2. 事業基盤の強さ
続いて注目されるのが「事業基盤の強さ」です。
ここでは自社が属する業界の将来性や競合状況、主要な取引先との関係性などが総合的に評価されます。
具体的には以下のような観点があります。
- 市場環境
- 業界の成長性や規制動向
- 市場規模の推移
- 競合他社との差別化要因や参入障壁
- 取引基盤
- 販売先の特徴と信用力
- 取引先の分散状況(特定企業への依存度)
- 仕入先との関係と安定供給体制
特に注意したいのは、売上の大半を1社に依存しているようなケースです。
その取引先が万一倒れたり方針を変えたりすると、直接的に自社の経営が脅かされるため、高いリスクとみなされがちです。
3. 営業力・技術力
3つ目の視点は「営業力・技術力」です。
中小企業ほど、“その会社ならでは”の技術やノウハウが強みになります。
銀行は、以下のような要素をチェックしています。
- 営業面での強み
- 独自の販売チャネルや顧客との強固な関係性
- 提案力やマーケティング手法
- 商品・サービスの競争力
- 技術・ノウハウ
- 特許やライセンスなどの保有技術
- 製造やサービス提供における独自のノウハウ
- 従業員のスキルレベルと技能継承の仕組み
たとえば「同業他社にはマネできないオリジナルの加工技術を持っている」「顧客から高く評価されるオーダーメイド型の商品が主力」などがあれば、定性評価でプラスに働きます。
4. 組織力
最後の視点は「組織力」です。
これは企業が長期的・継続的に事業を拡大できる体制を整えているかどうかを見極める項目です。
- 組織体制
- 社内管理体制や権限委譲の仕組み
- 意思決定プロセスの透明性
- 内部統制やリスク管理の整備状況
- 経営管理力
- 財務管理体制(資金繰り・予算管理)
- 経営計画の策定と運用
- BCP(事業継続計画)の整備
特に、経営者一人に過度に依存している場合は「トップがいなくなったら、会社が立ち行かなくなる」と見なされリスク評価が高くなります。
組織全体としてノウハウが共有され、誰が抜けても大丈夫な体制が評価アップにつながるのです。
定性評価を高めるために必要な3つのポイント
ここからは、定性評価を高めるための具体的なアクションについてお話しします。
私の経験上、定性評価の高い企業は「自社の強みを見える化し、銀行に戦略的に伝える」ことを上手に行っています。
そのためには次の3つのポイントが重要です。
1. 情報開示の充実
まずは「銀行に伝えるべき情報を明確にし、積極的に共有する」ことが大切です。
多くの経営者の方は、自社の特徴や取り組みを「当然わかっているだろう」と思い込みがちですが、銀行員があなたの会社の内部事情を詳しく把握しているとは限りません。
だからこそ、情報開示を自ら行う姿勢が評価につながります。
ここでは、たとえば以下のような情報をまとめておきましょう。
- 経営計画の提示
- 具体的な数値目標
- 目標達成のための具体的な施策
- 現在の進捗状況
- 業界動向の共有
- 市場環境の変化に対する自社の対応策
- 将来的なビジョンとリスク見通し
このように、銀行に「自社の将来をどう考えているのか」をしっかり示すことで、定性評価の面で信頼度を高めることができます。
2. 現場を見せる
次に「現場を見せる」ことです。
「百聞は一見にしかず」という言葉のとおり、紙の資料や口頭の説明だけでは伝わりにくい企業の魅力を、実際に“見てもらう”ことで理解してもらう手段です。
- 工場・店舗の視察受け入れ
- 現場の雰囲気や従業員の様子
- 設備や製造工程の状況
- 技術力のアピール
- 製品サンプルや実績の紹介
- 品質管理体制の説明
実際に現場を見ることで「この会社にはこんなに優秀な技術者がいるのか」「従業員の雰囲気がよく、風通しの良い組織だな」というように、書面ではわからない部分を銀行員が肌で感じることができます。
3. コミュニケーションの強化
最後に「コミュニケーションの強化」が欠かせません。
銀行との対話は、困ったときだけ行うのではなく、普段からの情報共有が重要です。
良い報告・悪い報告をこまめに行い、必要に応じて早めに相談することで、銀行からの信頼度が高まり、緊急時にも柔軟な対応を得られやすくなります。
- 月次での報告
- 業績や市場動向の変化
- 新規案件の進捗や課題
- 早め早めの相談
- 資金繰りが厳しくなる前に対応策を相談
- 設備投資や新事業立ち上げなど、大きな動きを計画している段階で銀行に共有
こうしたコミュニケーションを通じて、「この会社は誠実に情報を開示してくれる」と判断されれば、定性評価にプラス効果が期待できます。
まとめ:定性評価を味方につける
最後に、今回のポイントを整理しましょう。
定性評価は、一見すると主観的で捉えにくい印象がありますが、その分しっかりと取り組むことで大きな差を生みやすい要素でもあります。
数字だけでは伝えきれない“自社の強み”こそが、企業の本当の価値につながるからです。
- 金融機関による定性評価の比重
- メガバンク:ほぼ見ない(大口取引先のみ)
- 地方銀行:約10%
- 信用金庫:約20%
- 4つの重要な評価項目
- 経営者の資質
- 事業基盤の強さ
- 営業力・技術力
- 組織力
- 定性評価を高めるための3つの施策
- 情報開示の充実
- 現場の公開
- 定期的なコミュニケーション
「数字では表現できない強み」をいかに銀行に理解してもらうか。これが定性評価を高める大きなカギです。
自社独自の技術力や顧客基盤の強さ、従業員のモチベーションなどは、企業の成長エンジンともいえる重要なポイントです。
それらを“見える化”して銀行に伝えられれば、融資条件の改善や新たな金融支援につながる可能性が大いに高まります。
定性評価は、企業にとっては少し抽象的に思えるかもしれませんが、今回ご紹介したような具体的な観点から対策を進めていくことができます。
もし「うちの場合はどのようにPRすればいいのだろう?」「具体的にどんな書類やデータを用意したらいい?」といった疑問があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
銀行融資を上手に活用するために、定性評価も味方につけて、会社の将来をより安定したものにしていきましょう。